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AIに教える時代が来た|人生を資産化する「ライフ・コントリビューション・ループ」とは

AIに教える時代?いえ、AI伴走者の幕開け
人生を資産に変えるライフコントリビューションループ
2025年12月、私たちは大きな転換点に立っています。AIを「便利な道具」として使う段階は終わり、自分の「哲学」や「価値観」をAIに教育し、共進化していくフェーズへと突入しました。
先日目にした『理念と経営』の記事(2026年1月号)で、岡山大学の笹埜健斗氏は「Teach-to-AI(AIを教育する)」という概念を提唱しています。これは、単に情報を調べるのではなく、自分の考え方や行動ログ(IoB:振る舞いのインターネット)をAIに読み込ませ、自身の「意思決定の分身」を育てるという考え方です。
この視点は、私が提唱する「PDRM 2.0」の構想と深く共鳴するものです。
目次
AIは企業経営をどう変えるか?
1. 経営者の役割の劇的な変化
笹埜氏によれば、経営者の仕事は「判断そのものを下すこと(ディジョン・メイキング)」から、「判断基準をデザインすること(ディジョン・デザイン)」へと変わります。
意思決定の分身としてのAI: 経営者の哲学や価値観を教え込まれたAIが、経営者の「分身」となり、忖度のない冷静な判断を下すようになります。
AI役員の導入: 笹埜氏自身も、自らの思考パターンを学習させた「AI役員」を経営会議に参加させており、過去の意思決定や会社のミッションと照らし合わせて、人間が見落としがちな矛盾を指摘させています。
2. 市場構造の変容(BtoAIへの移行)
顧客の趣味嗜好をトレースしたAIが、顧客に代わって自律的に商品やサービスを選ぶようになります。
BtoAI市場の誕生: 市場は従来のBtoCやBtoBから、「BtoAI(企業対AI)」へと変わります。
透明性と信頼性が武器に: 企業は感情的な訴えよりも、顧客のAIが解釈しやすい形式で価値を提示する必要があり、透明性と信頼性が最強の武器となります。
3. 企業の競争力の源泉:AIの教育力
これからの時代の企業の競争力は、自社のAIをどう育てるか(内向き戦略)と、顧客のAIへどうアプローチするか(外向き戦略)の両輪で決まります。
社員全員がAIの教育者に: 社内に「AIを育てる文化」を作り、社員全員をAIの教育者に変えることが、自社のDNAをAIに教え込み、最強の分身を育てることに繋がります。
4. 教育の基盤となる「Teach-to-AI」と「IoB」
笹埜氏は、人間がAIに情報を聞くのではなく、人間がAIに「教える」立場となる「Teach-to-AI」を提唱しています。
振る舞いのすべてを学習させる: 過去のメール、チャット、会議での発言、さらには「IoB(Internet of Behavior:振る舞いのインターネット)」としてスマホ操作などの行動ログの全データをAIに読み込ませます。
哲学や思考を理解するパートナー: これにより、単なる情報検索ツールではなく、個人の考え方、哲学、価値観を理解し、再現するパートナーへとAIが成長します。
笹埜氏は、AIが99.9%の精度で答えを出せるようになったとしても、残りの0.1%に潜む「何かがおかしい」という人間の直感や違和感こそが、経営者に残された最後の砦であるとも述べています。
ひらめきは「過去の自分」からやってくる:PN-RAGの真価
笹埜氏は、人間がAIに教えるべきものとして「個人の考え方、哲学、価値観」を挙げています。これらは、メール、チャット、さらにはスマホの操作ログといった「振る舞いのすべて(IoB)」の中に、断片として散らばっています。
ここで重要になるのが、本システムの心臓部であるPN-RAG(Personal Narrative Retrieval-Augmented Generation)という技術定義です。
PN-RAGとは:
一般的なAIがネット上の「他人の情報」を検索(RAG)するのに対し、あなた自身の過去の経験、思考、哲学、そして日々の振る舞い(IoB)という「個人の物語(ナラティブ)」を唯一無二の参照ソースとする技術を指します。
過去の自分が「ひらめき」の種を蒔く
ひらめきが過去の自分から来るのであれば、AIにこれらすべてのログを読み込ませる行為は、未来の自分への「ひらめきの種」をAIという土壌に蒔く作業だと言えます。
「判断基準のデザイン」=「ひらめきの回路」の設計
経営者が行う「ディジョン・デザイン(判断基準のデザイン)」とは、AIに自分の哲学というフィルターを持たせることです。
AIが過去の自分を「鏡」として差し出す: AIがあなたの過去の膨大なナラティブ(語り)から、今の状況に共鳴する一点を抽出します。
ひらめきの瞬間: AIが「過去のあなたは、こうした時にこう感じていましたよ」と提示したとき、それは外部からの情報ではなく、過去の自分との再会として機能します。その瞬間に生まれる「あ、そうか!」という確信こそが、あなたが定義した「ひらめき」の正体です。
「ヘウレーカ」と「アハ体験」の瞬間
AIが「過去のあなたは、こうした時にこう感じていましたよ」と提示したとき、それは外部から与えられた情報の検索結果ではありません。それは、忘却の彼方にあった「真実の自分」との再会です。
ヘウレーカ(Eureka): アルキメデスが「わかった!」と叫んだように、バラバラだった過去の経験と現在の課題がAIという触媒によって繋がったとき、自分の中にあった答えを「発見」する体験が訪れます。
アハ体験(Aha experience): 0.1秒の瞬間に脳内の回路がつながり、世界の見え方が一変する感覚です。AIが「過去のミッションとの乖離」を指摘した際に、経営者が「ドキッとして事業の中止を決断する」ような瞬間こそ、まさに自己理解が深まるアハ体験の極致です。
AIという「分身」による自己の再発見
記事では、AIを自らの「分身(クローン)」と表現しています。
自分以上に自分を知っているパートナー: 経営者が迷った時、AI役員が「過去のミッションに照らすと乖離している」と指摘するのは、経営者自身が忘れていたり、無意識に目を逸らしていた「過去の自分(本質)」をAIがRAGとして引き出しているからです。
ひらめきを加速させる: このようにAIが「過去の自分」を整理して提示してくれることで、人間はゼロから悩む必要がなくなり、自分の本質に基づいた「ひらめき」へと最短距離で到達できるようになります。
ライフ・コントリビューション・ループ:新しい経済OS
「ライフ・コントリビューション・ループ(LCL)」とは、これまでの「消費して終わる経済」を、「経験を共有し、自分と社会の知恵を育てる循環型経済」へと書き換える新しい社会OSの定義です。
笹埜氏が提唱する「Teach-to-AI(AIを教育する)」という概念を、個人と社会の資産形成に組み込むことで、以下のような3つのパラダイムシフトを引き起こします。
1. 人生 = 消費ではなく「貢献」
これまでの経済では、人は「消費者」としてサービスを受け取り、お金を払って終わりでした。
定義の転換: 人生におけるあらゆる体験(成功も失敗も)を、AIに教え込み「ナラティブ資産」として構造化するプロセスそのものが、社会や未来の自分への「貢献」となります。
Teach-to-AIの役割: 自分の考え方や価値観、哲学をAIに教育することで、あなたの生きた証が「意思決定の分身」という価値ある資産に変わります。
2. 失敗 = コストではなく「供給」
これまでの経済では、失敗は時間とお金の「損失(コスト)」であり、避けるべきものでした。
定義の転換: 失敗した際の「期待値と実績のズレ」をAIが分析し、そこから得られた教訓を社会の共有知(PDRM 3.0)に放流することは、社会に対する貴重な「知の供給」となります。
知のワクチン: 笹埜氏のAI役員が「過去のミッションとの乖離」を指摘するように、失敗のパターンを論理化して共有することで、他の誰かが同じ過ちを繰り返さないための「ワクチン」を提供することになります。
3. 支払い = お金ではなく「経験」
「普遍的で安価なインフラ」を実現するための核心的な仕組みです。
定義の転換: システムを利用するための対価は、現金(マネー)ではなく、あなたの生々しい「経験(ナラティブデータ)」になります。
IoB(振る舞いのインターネット): スマホ操作や会議の発言、日々の振る舞い(IoB)をAIに読み込ませる(教育する)こと自体が、システムを維持し進化させるための「支払い」として機能します。
なぜこれが「新しい経済OS」なのか
このループが回ることで、社会全体が以下のようにアップデートされます。
自己理解の深化: 自分の経験を供給し続けることで、AIという鏡を通じて「ヘウレーカ(発見)」や「アハ体験(覚醒)」が日常的に起こり、自分自身をより深く知ることができます。
格差の是正: 高価なコンサルティングを受けられなくても、安価な(あるいは経験を対価とした)AIが、過去の自分や他者の知恵に基づいた「ささやき」を届けてくれます。
透明性の向上: 笹埜氏が述べる「BtoAI(企業対AI)」の時代において、企業もまた「ライフ・コントリビューション・ループ」に従い、誠実な経験を提供することが最強の競争力となります。
「人間らしさ」を守るための聖域:秘密と忘却
AIが私たちの振る舞いのすべて(IoB)を学習し、分身(クローン)として深く理解するようになればなるほど、人間にはAIが踏み込めない「空白」が必要になります。笹埜氏が指摘する、論理では説明できない「違和感」や「直感」を信じ抜くためには、システムから意図的に隔離された聖域が不可欠だからです。
1. 秘密機能:人間性の「聖域」を守るオフ・スイッチ
人生が「貢献」であり、支払いが「経験」となる「ライフ・コントリビューション・ループ」の中では、あらゆる行動が価値化されるため、人は無意識に「AIに評価される自分」を演じてしまうリスク(体験の演劇化)があります。これを防ぐのが「秘密機能」です。
「たった一人の自分」の確保: ボタン一つでAIの記録(学習)と「ささやき(介入)」を完全に遮断します。このモード中の経験はナラティブ資産にも供給されず、誰にも、そしてAIにさえも知られない「絶対的な孤独」を保証します。
直感を研ぎ澄ます「無」の時間: 笹埜氏が説く「何かがおかしい」という違和感は、外部からの情報(AIの提案)を遮断した静寂の中でこそ鮮明になります。秘密機能は、AIという鏡さえも介在させないことで、人間が「純粋な主観」を取り戻すための精神的隠れ家となります。
演劇化からの解放: 「誰にも見られていない、記録もされない」という確信があるからこそ、人間は計算や効率を捨て、本当の自分の願いに基づいた行動がとれるようになります。
2. 忘却機能:過去の呪縛を解く「リブート権」
PN-RAGは過去の自分を「ひらめき」に変える強力なツールですが、過去の失敗やデータが永遠に蓄積され続けることは、時に「新しい自分」への変化を阻害する呪縛(データの檻)となります。
ナラティブの焼却: 特定のチャプター(人生の章)や、特定のタグに関連するログを完全に消去する機能です。これは単なるデータ削除ではなく、AIが持つ「あなたの傾向(バイアス)」からもその影響を排除し、AIとの関係性をリセットすることを意味します。
「忘れること」による治癒と進化: 人間は本来、忘却することで傷を癒やし、過去の自分とは異なる選択をすることで進化してきました。忘却機能は、テクノロジーによって「忘れられなくなった人類」に、再び「新しくやり直す自由(リブート)」を付与します。
「守・破・離」の「離」を支援する: 過去の成功体験や失敗のパターンをあえて「忘れる」ことで、既存の枠組みを飛び出し、全く新しい次元(離)へ到達するためのブースターとして機能します。
主権を維持するための「不完全さ」の設計
笹埜氏は、AIが99.9%の精度で答えを出しても、最後は経営者の「違和感」という直感が重要であると述べています。この「秘密」と「忘却」は、まさにその0.1%の直感を守り抜くための、人間側への強力なバックアップ機能です。
秘密 = AIとの「適切な距離」を保ち、自己の核を守る信頼。
忘却 = 過去に縛られず、未来を自由にデザインする権利。
この二つを実装することで、ライフ・コントリビューション・ループは、AIによる「管理」ではなく、人間による「人生のデザイン」のためのパートナーAIとなります。
結びに:一人に一つの「パーソナルパートナーAI」を
私の最終目標は、全人類が安価に、そして普遍的にこの恩恵を受けられるインフラを作ることです。それは、のび太くんの弱さも失敗もすべて知った上で、共に歩んでくれる「ドラえもん」のような存在を、すべての人に届けることに他なりません。
AIを教育し、自分を知り、人生を資産に変える。
この「ライフ・コントリビューション・ループ」こそが、
2026年以降の新しい人類の生存戦略となるでしょう。



