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返金するなら初めから取るな|給付に頼らない税制・社会保障の新モデル提案

「また給付?」
ニュースで給付付き税額控除の文字を見るたび、そう感じた人は少なくないはずです。
税金や社会保険料を集め、足りない人に配り、そしてまた次の給付を議論する。
この流れは、一見すると「弱い立場の人を守る仕組み」に見えます。
しかし本当にそうでしょうか。
なぜ、取ってから返す制度が当たり前になってしまったのか。
なぜ、扶養の壁・非課税ライン・給付対象の線引きがこれほどまでに人の行動を縛るのか。
問題は、給付そのものではありません。問題は、給付が必要になる制度設計にあります。
今の税・社会保障制度は、「あるラインを超えた瞬間に負担が跳ね上がる」階段型の構造でできています。
だから私たちは、給付を増やす前に、もう一度立ち止まって考える必要があります。
返金するなら、初めから取るな。
このブログでは、給付付き税額制度の是非を論じる前に、税と社会保障の「取り方そのもの」を見直すNEWモデルを紹介します。
利用者の負担感は変えず、社会の負担構造だけを正直にする。
給付で後追いする社会から、最初から無理のない設計をする社会へ。
「また給付?」と感じたその違和感こそが、制度をアップデートする出発点なのかもしれません。
目次
税と社会保障費の一体改革を!NEWモデルの詳細
このNEWモデルでは、
所得が0円であっても、完全0負担の例外をなくす
社会保障への参加は年額5,000円からスタート。
これは「負担を増やす」ためではありません。“例外をなくすための最低参加ライン”です。
■ なぜ「0円」ではなく「5,000円」なのか
現行制度では、
所得が一定以下 → 非課税
社会保険も免除
扶養・非課税という特例ゾーンへ
という完全ゼロ負担の例外が存在します。
しかしこの「0円ゾーン」こそが、
非課税ライン/扶養の壁/1円差での不公平
を生み出してきました。
NEWモデルでは、完全ゼロを作らず、全員が同じスタートラインに立つことで、例外そのものを不要にします。
■ 課税・負担は”階段”ではなく”スロープ”
負担の考え方は非常にシンプルです。
基本負担:年額5,000円
所得に応じて:ごく小さな割合で上乗せ
急に跳ね上がるポイントは存在しない
イメージとしては、
❌ 階段型
壁のある構造
⭕ スロープ型
ゆるやかに上昇
■ ゆるやかな連続課税のイメージ(概念)
所得 0円 → 年額 5,000円
所得が増えるごとに、数百円〜数千円単位でなだらかに増える
「ここを超えたら急に負担が重くなる」という地点は存在しない
そのため、
✓働き始めても損をしない
✓収入が増えれば、必ず手取りも増える
✓非課税・課税の境界で悩む必要がない
という状態が生まれます。
■ 低所得者の生活はどう守るのか?
ここで重要なのは、「課税する」=「生活を圧迫する」ではないという点です。
NEWモデルでは、
利用者の医療・介護負担は3割で固定
裏側では
保険料で賄える部分
税金で肩代わりする部分
を所得階層ごとに自動調整します。
つまり、
低所得者ほど
→ 税による補填割合が大きくなる
表の負担は変えずに
→ 裏で社会が多く支える
という設計です。
この仕組みがもたらす最大の効果
• 非課税世帯という区分が不要になる
• 扶養・壁・特例ルールが消える
• 「取ってから返す」給付行政が不要になる
• 社会的な支援額がすべて数値で見える
結果として、
誰を、どれだけ社会として支えているのか
どこに構造的な課題があるのかが明確になります。
現行の制度でも社会保障費は税金+国債で賄われている部分もあります。支援しているのか、依存を作っているのかが分かりませんでした。結果として消費税増税など、安易な政策が盛んに議論されるのです。
このモデルでは、
税投入が多い層 = 社会としてコストがかかっている層が明確になる
どの層にどれだけ足りていないのかという現状が可視化されます。
教育・雇用・賃金・産業政策をそこに集中させる合理的理由が生まれます。
課税や社会保障費の「階段」を調整するのではなく、なくす
給付付き税額控除や各種減免策は、一見すると「壁を低くする」「段差をなだらかにする」合理的な対応に見えます。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
問題は「段差の高さ」ではなく、段差そのものが存在していることです。
■ 現行制度は「階段構造」でできている
今の税・社会保障制度は、典型的な階段型です。
ある所得までは
税:かからない
社会保険:免除
あるラインを超えた瞬間に
税が発生
社会保険料が一気に発生
控除が消える
この構造が、
103万円の壁・106万円の壁・130万円の壁
住民税非課税ライン
を生み出してきました。
■ 「調整」はしてきた。でも「構造」は変わっていない
これまで行政は、こう対応してきました。
壁の金額を少し上げる
給付金で穴埋めする
一時的な減免を入れる
しかしこれはすべて、階段の”高さ”を調整しているだけです。
階段が存在する限り、どこかに必ず境界/不公平/行動の歪みが残ります。
■ なぜ階段構造は、必ず問題を生むのか
理由はシンプルです。
階段構造では、1円の差でもらえる/もらえないが分かれる
これは制度として、
不公平感を生む
働き方を歪める
調整行動(働き控え)を誘発する
という避けられない副作用を持っています。
「給付が必要な制度」は、設計ミスのサイン
重要な視点があります。
給付が恒常的に必要な制度は、最初の取り方が間違っている可能性が高い
NEWモデルは、
最初から取りすぎない
最初から正しい負担にする
後から返さない
という設計です。これが「返金するなら初めから取るな」という考え方です。
このモデルを徹底すると「住民税非課税世帯」という”区分”は消える
① 「住民税非課税世帯」とは何だったのか
そもそも住民税非課税世帯は、
所得が極端に低い人に
税や社会保険を免除しないと生活が成り立たない
しかし制度が段差だらけなので
→ 完全免除(0円)という例外ゾーンを作った
という、制度の歪みを補うための”特例”です。
本質的にはこうです。
連続的に軽く課税できない。徴収できる仕組みがない
↓
仕方なく「0円ゾーン」を作った
② 連続負担モデルでは「0円ゾーン」が不要になる
NEWモデルの設計では、
年間一人 5,000円スタート
そこから 1%などの超ゆるやかなスロープ
生活負担は 税投入で裏から補填
利用者負担(医療など)は 3割で固定
つまり、
「急に苦しくなるライン」が存在しない
「課税された瞬間に生活が壊れる」ことがない
結果として、
「非課税にしなければ守れない人」がいなくなる
ので、住民税非課税世帯という区分そのものが不要になります。
③ 重要:これは「非課税世帯を切る」話ではない
ここを誤解すると危険なので、はっきり言います。
❌ 誤解
「非課税世帯をなくして負担をかける」
⭕ 正しい理解
「非課税という例外を作らなくていい社会にする」
④ 住民税非課税世帯がなくなると何が起きるか
支援の線引きが激減する
今は、
非課税世帯だけ給付・非課税世帯だけ減免・非課税世帯だけ優遇
という分断が起きています。
これが、
所得階層ごとの連続支援
税投入額が自動計算に変わる。
「ギリギリ非課税」の不公平が消える
現行制度最大の不満点、
1円違いで・もらえる人・もらえない人が分かれる
これが完全に消えます。
では「給付」や「減免」はどうなる?
結論:
一律給付・非課税世帯限定給付
は原則不要になります。
代わりに、
税・保険料の自動軽減
バックエンドでの税補填
人数控除
という事前調整型に置き換わる。
まさに「返金するなら初めから取るな」の完成形です。
技術的に可能なのか?
結論:マイナンバーがある今、ほぼすべて実装可能
構想している仕組みは、
連続負担
所得階層別の保険料・税負担配分
税投入額の可視化
扶養・非課税区分の不要化
これらをリアルタイムに処理する必要がある制度ですが、実は必要な技術要素はすでに日本に揃っています。
① マイナンバーで何ができるか(現実ベース)
マイナンバーは「番号」ではなく、統合キーです。
現在すでに連携・または連携可能な情報は以下。
所得情報(給与・年金・事業所得)
税情報(所得税・住民税)
社会保険加入状況
医療保険の利用実績
世帯情報(人数・年齢)
給付・補助金の受給履歴
つまり、「誰が・いくら稼ぎ・いくら払って・どれだけ使っているか」を、個人単位で一意に把握できる基盤はすでに存在します。
② 連続負担モデルの技術処理フロー(裏側)
このモデルを、システム目線で分解するとこうなります。
Step1:所得データの自動取得
給与:企業からの年末調整・源泉徴収データ
個人事業:確定申告データ
年金・その他収入:支払機関から自動連携
→ マイナンバーで名寄せ
Step2:個人ごとの「標準負担額」を自動計算
例:
年間基本負担:5,000円
所得連動負担:年収 × 1%
これは単なる数式処理なので、自治体システムでも国税システムでも実装可能。
Step3:医療・介護などの実利用コストを把握
医療行為の点数
介護サービスの給付額
これもすでにレセプト(診療報酬明細)としてデジタル管理されています。
Step4:負担の”内訳”を自動分解
ここがこのモデルの核心部分。
同じ医療費10万円でも、
表:本人負担 3万円(全員共通)
裏:
Aさん(低所得):
保険料由来 1万円
税投入 6万円
Bさん(中所得):
保険料由来 4万円
税投入 3万円
この配分は、その人が年間いくら保険料を納めているか、どの所得階層に属するか、をもとに、自動で計算可能。
Step5:税投入額を「見える化」
マイナンバー単位で、
あなたが受けた社会保障給付総額
あなたの自己負担
社会(税)が肩代わりした額
を集計できる。
③ 扶養・非課税世帯が不要になる理由(技術的視点)
現行制度では、
扶養判定
非課税判定
というYES / NOの分岐を大量に作っている。これはシステム的には非常に面倒。
NEWモデルでは、
所得 × 連続関数
世帯人数 × 控除係数
という数値処理だけになる。
結果として、
条件分岐が激減
バグ・不公平が減る
行政コストが下がる
IT的にはむしろ「簡単になる」設計です。
④ 海外との比較:日本はむしろ有利
アメリカ
社会保障番号(SSN)はあるが
医療・税・給付が分断
EITCは年1回の事後処理
日本
マイナンバーで横断可能
医療レセプトは全国共通
自治体・国税・保険が接続可能
つまり、制度さえ決めれば、日本は世界トップクラスで実装しやすい
⑤ 残る課題は「技術」ではなく「意思決定」
はっきり言います。
技術:ほぼ問題なし
データ:すでにある
計算:簡単
セキュリティ:既存枠組みで対応可能
残っているのは、
税と社会保険を一体で設計する覚悟
「非課税」「扶養」という既得権構造を整理する政治判断
だけです。
社会的課題を可視化し、「全体の所得が上がる方向」へ進もう
ここまで読んで、
給付付き税額制度の限界
階段型制度の問題
非課税世帯という例外の正体
が見えてきたと思います。
では最後に、このNEWモデルが目指している本当のゴールを確認します。
それは「うまく再分配すること」ではありません。
低所得状態そのものを減らすこと、社会全体の所得水準を引き上げること
です。
■ 給付中心の制度が抱える”見えない問題”
給付や減免は、短期的には人を救います。
しかし、構造的にはこうなりがちです。
誰を
どれだけ
どの理由で
支えているのかが見えにくい。
結果として、
支援が恒常化
政策効果が検証できない
「とりあえず給付」が続く
という状態になります。
■ NEWモデルがやっているのは「見える化」
このモデルでは、
低所得者ほど → 税投入割合が高くなる
中・高所得者ほど → 保険料で支える割合が高くなる
その結果、
どの所得階層に、どれだけの社会的コストがかかっているかが、数字で把握できます。これは非常に重要です。
■ 「支援」と「課題」が同時に見える社会へ
例えば、
税投入が多い層が特定の年代に集中している
特定の地域・業種に偏っている
と分かれば、
教育政策
雇用政策
産業政策
賃金政策
を、そこに集中投下する合理的理由が生まれます。
つまり、再分配の議論が「守るか・切るか」から「どう押し上げるか」へ変わるのです。
■ 低所得者を「守る」と「減らす」を同時にやる
従来制度では、
低所得者を守る = 非課税・給付
でした。しかしそれでは、
低所得状態が固定化
次の一手が見えない
という問題がありました。
NEWモデルでは
今は税でしっかり守る
でも
税投入が多い状態を社会的な課題として認識する
ことで、「守る」と「減らす」を同時に成立させることができます。
■ 「働いたら損」を完全になくす意味
スロープ型負担モデルでは、
働き始めても
収入が少し増えても
必ず手取りが増えます。
これが意味するのは、
働き控えが消える
副業・復職・時短の心理的障壁が下がる
労働参加率が自然に上がる
ということです。これは給付では作れない効果です。
■ 国にとっても「持続可能」
このモデルは、給付を減らす、予算を削る、ためのものではありません。
税投入が必要なところに正確に使われているかを把握し、財政と政策を連動させる、ための仕組みです。
だからこそ、財政規律、社会的納得感、将来世代への責任を同時に満たせます。
所得税への適用による解決
「壁」をなくす税制設計へ
ここまで述べてきたNEWモデルは、社会保障費だけでなく所得税にもそのまま適用可能です。
むしろ、所得税に適用してこそ「返金するなら初めから取るな」という思想は完成します。
基本原則:課税最低限と控除の「境界」をなくす
所得税におけるNEWモデルの原則は、ただ一つです。
ON / OFF の境界をやめ、すべてを連続化する
1. 課税最低限(壁)の解消
現行の所得税が抱える問題
現在の所得税では、基礎控除/給与所得控除/各種所得控除の合計が「課税最低限」となり、このラインを超えた瞬間に税負担が発生します。
この構造が、
パート・アルバイトの「〇〇万円の壁」
働き控え
1円差の不公平
を生む心理的要因になっています。
NEWモデルによる解決
社会保障と同様に、所得税でも
「課税最低限」というON / OFFの境界を廃止
所得が低い段階からごくわずかな税率で課税開始
所得に応じて、税率をなだらかに上昇
例えば、
所得が低い段階では 0.01%
所得が増えるにつれて、ゆるやかに税率が上がる
という連続累進税率(スロープ型)を採用します。
結果として、所得が1円増えても手取りは必ず増えるという状態が保証されます。
2. 控除の整理と簡素化
現行制度の課題
現行の所得控除制度(扶養控除・配偶者控除など)は、税額計算が複雑、控除額 × 税率のため高所得者ほど恩恵が大きい、控除の有無が「壁」を生む、という問題を抱えています。
これは制度として、逆進的な側面を持っています。
NEWモデルによる解決:控除を「税額調整」に一本化
NEWモデルでは、所得から差し引く「所得控除」を整理
世帯構成・子どもの人数などは税額控除(タックス・クレジット)で調整します。
所得税の計算は、
所得 × 連続的な基本税率
そこから人数・子育て/介護/などに応じた一定額を差し引く
という、非常にシンプルで透明な構造になります。
扶養の有無というON / OFF判定が不要
控除額は連続的に増減
「扶養の壁」は自然に消滅します。
3. 給付付き税額控除が不要になる理由
給付付き税額控除は、階段構造が生む不公平を、事後的に給付で調整する仕組みです。
しかしNEWモデルでは、
そもそも取りすぎない。
急に負担が増えない
ため、給付で返す必要がありません。
総合的な影響:税と社会保障を一体で設計する意味
所得税と社会保障費の両方にこのモデルを適用すると、マイナンバーを活用した統一的な計算基盤、税・保険料・税投入額の一元管理が可能になります。
その結果、次の効果が生まれます。
① 究極の公平性:所得が増えれば、必ず手取りが増える
② 行政コストの削減:線引き判定、給付・減免事務が激減
③ 財政の透明性:誰が、どれだけ、税か保険料かで支えられているかが可視化される
まとめ
給付付き税額控除は悪くありません。
ただし、それは段差だらけの制度を補修する応急処置です。
目指すのは「給付社会」ではない
給付を否定する話ではない。でも給付が前提の制度から脱却しようという話です。
NEWモデルが向かう先は、
返金しなくていい制度
境界のない制度
課題が数字で見える制度
所得が上がる方向に進む制度
一言で言えば、「返金するなら初めから取るな」を本気で実現する社会設計
この制度は「覚悟」を問う 社会保障と税の一体改革
このNEWモデルは、楽な制度ではありません。誰かに優しく見せる制度でもありません。
しかし、正直な制度、持続する制度、次の世代に説明できる制度ではあります。
財政の話であり、行政効率の話であり、そして社会の成熟度を問う言葉でもあります。
この議論を避け続けるか、構造から向き合うか。それを選ぶ段階に、私たちはもう来ているのかもしれません。



