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スマホ新法が壊そうとしているのは「技術」ではなく「支配構造」だ|2025年12月18日施行の意味

2025年12月18日、正式名称「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」、通称「スマホ新法」が施行されました。

この日を境に、私たちが毎日使うスマートフォンの世界は、静かに、しかし確実に変わり始めています。

この法律が生まれた背景には、2018年に公正取引委員会、経済産業省、総務省によって立ち上げられた「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」があり、7年をかけて作られました

7年という時間は、決して短くありません。その間、AppleとGoogleという2つの巨大企業が築き上げた「完璧すぎるエコシステム」は、ますます強固になっていきました。

なぜ今、この法律が必要だったのか

スマートフォンは、もはや私たちの生活から切り離せない存在です。買い物も、銀行取引も、健康管理も、すべてがアプリを通じて行われる時代。しかし、そのアプリにアクセスする”入口”は、事実上2つしかありませんでした。

AppleのApp Store と GoogleのGoogle Play

規制の対象となるのは、OS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンの4つのソフトウェアについて1カ月平均の利用者数が4000万人以上の事業を行う事業者で、現時点ではアップルとグーグルの2社が規制対象となります。

この2社による支配は、決して「悪」ではありませんでした。むしろ、統一された基準によって、安全性と品質が保たれていた側面もあります。しかし同時に、その「完璧な庭」の中では、彼らが決めたルール以外の選択肢が存在しませんでした。

アプリ開発者は、彼らが定めた30%の手数料を支払わなければアプリを配信できない。

ユーザーは、彼らが用意したブラウザや決済システムを使わざるを得ない。

そこには「選べない自由」が横たわっていたのです。

スマホ新法が求めるもの

この法律では、以下の行為が禁止されます:

・サードパーティー事業者が新たにアプリストアを始めることを妨げる行為

・ほかの課金システムの利用を妨害する行為

・通信機能やGPS機能などOS機能の利用を妨害する行為

・アプリから外部サイトなどに移動するリンク設置などを制限する行為

つまり、この法律が壊そうとしているのは「技術」ではなく、「支配構造」なのです。

AppleやGoogleが築いてきた高品質なサービスそのものを否定するのではなく、「それ以外の選択肢を持てるようにする」こと。

ユーザーが、自分の意志で、ブラウザを選び、決済方法を選び、アプリストアを選べる——そんな当たり前の自由を取り戻すことが、この法律の核心です。

実際に何が変わるのか

AppleとGoogleはアプリ事業者が外部の決済サービスに利用者を誘導できるようにしました。外部決済を利用する場合、アップルは自社への支払手数料を最大15%に、グーグルは最大20%に設定しました。

また、ブラウザと検索エンジンについて、デフォルトで設定されているもの以外も選べるように、OSアップデート時や新端末の初期設定時に選択画面(チョイススクリーン)を表示することが求められています。

これにより、たとえば:

📱 iPhoneユーザーでも、Safariではなく、ChromeやEdgeを最初から標準ブラウザとして設定できる

🔍 検索エンジンも、GoogleだけでなくBingやDuckDuckGoを自由に選べる

💳 アプリの課金も、Apple経由ではなく、外部の決済サービスを使える

光と影——期待される変化と懸念される課題

期待される変化

アプリ開発者にとっては、高額な手数料から解放され、より柔軟なビジネスモデルを構築できる可能性が広がります。

ユーザーにとっては、選択肢が増え、より安価で多様なサービスを享受できるようになるでしょう。

懸念される課題

しかし一方で、懸念の声も上がっています。特に指摘されているのがセキュリティの問題です。

これまでAppleやGoogleが厳格に審査してきたアプリストアの仕組みが緩和されることで、悪意のあるアプリが流通しやすくなるリスクがあります。

また、iPhoneの子ども向けフィルタリング機能が正常に動作しなくなる可能性も指摘されています。現在のフィルタリングはWebKitというブラウザエンジンを前提に設計されていますが、他のブラウザエンジンが使えるようになると、その仕組みが機能しなくなる恐れがあるのです。

選べない自由を終わらせる日

日本の制度がEUの「デジタル市場法(DMA)」と足並みを揃える形で導入された点は注目すべきです。両地域の規制当局は協力体制を構築しており、企業が国境を超えて活動する中で、規制の一貫性を持たせる狙いがあります。

世界はすでに動き始めていました。EUが先行し、日本が続く。AppleやGoogleという巨大企業に対して、国家が介入する時代がやってきたのです。

それは、彼らが「悪」だからではありません。彼らのサービスがあまりにも優れていて、あまりにも便利で、あまりにも完璧だったからこそ、私たちはそれ以外の選択肢を持てなくなっていたのです。

「便利だから」はもう理由になりません。

便利さと引き換えに、私たちは知らず知らずのうちに、選ぶ自由を手放していたのかもしれません。

この法律が問いかけるもの

スマホ新法の施行は、単なる規制強化ではありません。それは、デジタル社会における「自由とは何か」という根本的な問いを、私たちに突きつけています。

完璧な庭の中で、安全に、快適に暮らすこと。

それとも、多少のリスクを引き受けながらも、自分で選ぶ自由を持つこと。

答えは一つではありません。しかし、少なくとも今、私たちは「選べる」ようになりました。

2025年12月18日という日は、その意味で、歴史的な転換点だったのかもしれません。スマートフォンが「誰のものか」を、改めて考え直す日——そう位置づけられる日になるでしょう。

それでも、私たちの多くは、今日もiPhoneを使い、Googleで検索をしています。完璧すぎる庭は、依然としてそこにあり、その魅力は色褪せていません。

ただ、今は違います。
私たちは「選んで」そこにいるのです。

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