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イノベーション新結合とは何か?AI時代に求められる「持たない経営」という発想転換

「AIを使えば、誰でも簡単に正解が出せる」と言われる時代。
しかし、ビジネスの現場で本当に求められているのは、その先にある「差別化と独自性」です。
先日受講した研修のシラバスには、2016年に定義された「Society 5.0」という言葉が並んでいました。しかし、エージェント元年である2025年を生きる私たちの実感は、もっと先にあります。
今回は、イノベーションの本質である「新結合」を、データ活用の新たなパラダイムから紐解きます。
「イノベーション」と聞くと、まったく新しい技術や、天才的なひらめきを想像する人も多いかもしれません。
しかし経済学者シュンペーターが定義したイノベーションの本質は、
ゼロから生み出すことではなく、すでにあるものを、これまでとは違う形で結び直すこと。
それこそが、イノベーションの正体です。
目次
既存の課題へ「対処」と「根本解決」の両輪で挑む
イノベーションとは、何もないところから魔法のように生まれるものではありません。目の前にある課題に対し、二つのアプローチを同時に行うことから始まります。
現場には、日々たくさんの「困りごと」があります。
トラブルが起きた
クレームが出た
業務が回らない
多くの場合、私たちはまず対処をします。
その場を収める
応急処置で回す
ルールを一つ足す
これは必要な行為です。
ただし、対処だけを繰り返すと、問題は形を変えて再発します。
イノベーションは、「どう対処するか?」ではなく、なぜ、その問題が起き続けるのか?という構造に目を向けたときに生まれます。
事例として、AI時代のシステム・セキュリティの課題について考えてみましょう。
AI時代の幕開けとともに、私たちのデータを取り巻くリスクは劇的に変化しました。
AI時代のセキュリティリスクの一例
現場で起きているのは以下のようなどす黒い脅威です
バイブハッキング: AIのトーンや振る舞いを巧妙に操り、ガードレールを潜り抜けて機密情報を引き出す。
プロンプトインジェクション: 悪意ある指示文を注入し、AIシステムを内部から乗っ取る。
マルウェア生成: AIを悪用し、高度なウイルスや攻撃プログラムを高速に量産する。
ゼロデイ攻撃: 修正プログラムが出る前の未知の脆弱性を突き、防御の隙を与えない。
これらの脅威に対し、パッチを当て続けるのはあくまで「対処」に過ぎません。
一方で、私たちのロードマップが目指すのは「根本解決」です。
対処(短期)
共有サーバーの停止やセキュリティリスクに対し、ミラーリングや多要素認証で「今ある穴」を埋める。
根本的な解決(長期)
「なぜリスクが生まれるのか?」という根源を問い、システム構造そのものを再設計する。
私たちが目指すのは、単なるパッチ当てではありません。「守り続ける地獄」から脱却するための、抜本的な構造転換です。
それは、「企業が個人データを保有し続ける前提そのものを終わらせる」という、インフラ構造の再設計に他なりません。
オズボーンのチェックリストで「常識」を疑う
発想を飛躍させるための強力な武器が「オズボーンのチェックリスト」です。
視点をズラしてみる
発想転換の古典的フレームワークが、オズボーンのチェックリストです。
たとえば、
代用できないか?
組み合わせられないか?
逆にできないか?
大きく・小さくできないか?
取り除けないか?
重要なのは「正解を出すこと」ではありません。問いの角度を変えることです。
視点が変わると、今まで前提だと思っていたこと、当たり前だと疑わなかった仕組みが、突然「変えてもいいもの」に見えてきます。
例えば、「逆転(Reverse)」の視点を持ってみる。
↓「データは集めて守るもの」という常識を逆転させる。
↓「企業がデータを持たなければ、漏洩という概念すらなくなるのではないか?」
新結合: これにより、「セキュリティ強化」と「プライバシー保護」、さらに「管理コストの削減」という、従来はトレードオフの関係にあった要素を高い次元で結合させています。
「集めて守る」から「持たずに演算する」へ
これまでのマーケティングやセキュリティは、データを「所有」することに執着してきました。
しかし、2025年末の今、私たちが提唱するのは「所有から演算へのシフト」です。
データは個人側に
PDRM 2.0の思想に基づき、個人データは「パーソナル・クラウド」に帰属させる。
必要な時だけ連結
企業は「必要な瞬間・範囲・目的」においてのみ一時的に連結し、演算だけを行う。
この「ナラティブ(人生の文脈)×一時的な演算」という新結合こそが、プライバシーと利便性を両立させる答えです。
テクノロジーが発達するごとに、犯罪集団のハッキングやクラッキングの技術が上がり、セキュリティコストも飛躍的に増加していきます。
そもそも個人データを保持する役割は何だったのでしょうか?
BtoCビジネスの根幹において、実は「本名」や「固定された属性」は重要ではありません。本当に価値があるのは、その人が今、人生のどの文脈(ナラティブ)にいて、何を求めているかという「意味」の同期です。
匿名でも成立する信頼関係: ニックネームや匿名であっても、PDRM 2.0に基づいた「準拠集団」や「ナラティブ」の突合ができれば、最高のマッチングは可能です。
ユーザー自身が管理するインセンティブ: 「自分のデータを自分で管理するほど、より精度の高い、自分だけの体験価値(ナラティブ上の次の一手)が手に入る」という設計さえあれば、データは常に新鮮な状態でユーザーの手によって更新されます。
実装例としてのパーソナル・クラウド: Google CloudやNotebookLMといった既存の環境を「個人の聖域」として活用し、企業は必要な瞬間に、必要な権限だけで連結する――これが「実装は困難だが、価値が生まれる」場所です。
顧客が自己の体験をより良いものにしたいというインセンティブを設計してしまえば、データの使用・管理・更新はユーザの手にゆだねられるはずです。
持たないことが、最大の防御であり、最大のサービスである
セキュリティを突き詰めた先にある答えは、「完璧に守り続けること」ではなく「持たないこと」という逆転の発想でした。
企業はデータの「保管者」であることをやめ、価値を生成する「演算者(エディター)」へと進化すべきです。
このパラダイムシフトを受け入れた企業だけが、セキュリティコストの呪縛から解放され、顧客の「物語」に深く寄り添う体験を提供できるのです。
発想は自由。価値は「困難な実装」の先に宿る
「データを持たない経営」なんて、理想論だと言われるかもしれません。
アイデア段階で、それは無理だ、現実的じゃない、実装が大変だと言い始めると、新結合は生まれません。
確かに、既存の慣習を打ち破る実装は困難を極めます。
しかし、難しいからこそ、そこに圧倒的な価値が生まれます。
大切なのは順番です。
発想は自由にする
構造として成立しているかを見る
実装の難しさを価値に変える
多くの人が避ける「面倒さ」の中にこそ、他者が真似できない価値が眠っています。
秘密と忘却: 必要な時だけ繋がり、終われば忘れる機能の実装。
PDRM 2.0: 属性ではなく、準拠集団やナラティブでマッチングするロジック。
これらを形にするプロセスこそが、AIには代替できない人間ならではのイノベーションです。
結論:イノベーションとは「才能」ではなく「視点の再設計」
イノベーション新結合とは、
何かを新しく作ることではありません
天才的なひらめきでもありません
既存の要素を、別の関係性でつなぎ直すこと。
オズボーンのリストを片手に「自分なりの新結合」を試みる。
むずかしく考える必要はありません。発想は自由です。
課題を「対処」ではなく「構造」で捉え、当たり前を一度外し、発想は自由に、実装は覚悟をもって向き合う。
それができたとき、イノベーションは特別な人のものではなく、誰の現場からでも生まれる力になります。



