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RAG(検索拡張生成)とは?Dify×n8nで実現するプライベートAI【前編】

RAG(検索拡張生成)とは何か?Dify×n8n連携の可能性

AIが私たちの仕事や生活に深く入り込み始めた今、単なる「便利なツール」から「共に考え、行動する存在」へと進化しつつあります。

その中核を担うのが、RAG(検索拡張生成:Retrieval-Augmented Generation)という技術です。

ChatGPTなどの生成AIが得意とする”文章生成”に、「検索による裏づけ」を組み合わせることで、より正確で文脈的な回答を導き出す――。それがRAGの本質であり、AIを”知識の再利用装置”へと変える鍵でもあります。

本記事では、このRAGの基本構造と、AI開発プラットフォームDify、自動化プラットフォームn8nを掛け合わせた次世代ワークフローについて解説します。

AIが「学び」「動き」「成長する」――そんな未来の業務プロセスが、すでに現実のものとなりつつあります。

01:RAG(検索拡張生成)とは何か?
プライベートAI時代の”知識のパーソナライズ化”

AIが急速に進化する中で、次に求められているのは「大規模なAI」ではなく、“自分専用のAI”=プライベートAIです。

それは、誰かが教えてくれるAIではなく、自分の経験・知識・思考を学習し、共に進化する存在。

このプライベートAIを実現する上で、欠かせない仕組みがRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)です。

従来の生成AIは、膨大な一般知識をもとに文章を作り出しますが、その知識は「他人のデータ」です。

一方、RAGは自分自身のデータ(個人のメモ、議事録、文章、体験記録など)をもとに検索・生成を行うため、AIが「あなたを理解した上で答える」世界が実現します。

RAGの本質

つまり、RAGは単なる技術ではなく、“自分の思考を拡張し、知識を私有化するための基盤”なのです。

たとえば、過去に書いた日報・議事録・ブログ・メールの内容をAIが参照し、「あなたが以前どう考えていたか」「どんな意図で判断したか」を踏まえた上で回答してくれる。

これが、プライベートAIとしてのRAGの真価です。

🔍 RAGがもたらす3つの価値
🧠
自己理解の深化
AIがあなたの知識・思考・感情を検索・統合することで、思考の傾向や課題が見える。
📚
知識の継承・拡張
自分の過去の記録を再構成し、未来の意思決定や学びに活かすことができる。
🔐
倫理的AIの第一歩
企業や国家ではなく、個人がAIの”記憶と知識”を所有することが可能になる。
このようにRAGは、AIの性能を高める技術であると同時に、「AIを通して自分を知る」「知識を自分の手に取り戻す」ための思想的基盤でもあります。

Difyはその中核として、個人の知識やドキュメントを安全に扱い、n8nはそれを日常の行動や業務に自動的に接続していく――。

この組み合わせこそが、プライベートAIの時代を切り開くRAGの最適解です。

02:RAGの仕組み、どこを調整すれば独自性が生まれるのか
AIに”価値判断の軸”を与える。理念×RAG=企業文化を持ったAI

RAG(検索拡張生成)は、一見すると単純な「検索+生成」の仕組みに見えます。

しかし、その実態は非常に奥深く、どこをどう設計・調整するかによって“AIの人格”が変わるほどの影響力を持っています。

🔧 RAGの基本構造
1 データの準備(Knowledge Source)
AIが参照するドキュメント、会話ログ、社内マニュアル、議事録などを選定します。これがAIの「知の素材」となります。
2 チャンク化(Chunking)
文章を意味単位で分割し、検索の精度を高めます。この段階で、「どこで区切るか」「どの程度の粒度にするか」によって、AIの理解の深さが変わります。
3 ベクトル化(Embedding)
チャンクを数値化して”意味空間”にマッピングします。同義語・文脈理解などの性能は、ここで使用するEmbeddingモデルの選定に依存します。
4 検索(Retrieval)
質問と最も関連性の高いチャンクを検索します。単なるスコアリングではなく、「社内データ優先」「最新情報優先」などの検索ロジックの調整が独自性を左右します。
5 生成(Generation)
検索で得た情報をもとに、LLMが自然文で回答を生成します。この段階でプロンプト設計を最適化すれば、回答のトーン・専門性・一貫性を自社仕様にできます。
🧩 独自性を発揮できる”3つの設計ポイント”

RAGを単なる汎用AIにしないためには、以下の3点を自社文脈に合わせて設計・調整することが重要です。

① チャンク化戦略:どの「単位」で知識を扱うか

多くの企業では、”1ページ=1データ”のように大雑把に分割してしまい、AIの理解が浅くなりがちです。

一方、独自性を出したい企業は、「業務の思考単位」でチャンクを切ります。

スタッフ教育の現場なら「対応フレーズ単位」
顧客対応なら「質問意図単位」
経営企画なら「意思決定プロセス単位」

このように「現場思考」でチャンクを切ると、AIが自社文化や判断基準を理解するAIに変わります。

② ナレッジの抽出と分類:何を”AIが語る知識”にするか

RAGの精度を高める最大の要は、データの取捨選択と分類設計です。

単なるFAQやマニュアルではなく、

実際の成功・失敗事例
社員が残したリアルな判断理由
顧客の感情ログ

これらをナレッジに加えると、AIが「形式知」だけでなく「暗黙知」まで扱えるようになります。

人間らしい共感や判断を出せるRAGは、ここで生まれます。

③ 生成フェーズの設計:AIがどう語るか(プロンプト・トーン)

RAGの最終段階は”生成”です。ここで重要なのは、自社の言語文化を反映するプロンプト設計

「お客様に寄り添う言葉で」
「経営層に提案する語調で」
「現場スタッフでも理解できる説明で」

といった文体ルールをプロンプト化し、生成AIに埋め込むことで、AIのアウトプットが「その会社らしい声」になります。

💡 独自RAGとは、「知識構造 × 言語文化 × 思考粒度」の再設計

RAGはオープンソースでも作れますが、独自性は”技術”ではなく”思想”に宿ります

03:ハイブリッド検索で、自社の独自性とポジションを調整する
“情報の選び方”がブランドになる時代

RAGの本質は「どの情報を信じるか」という選択の技術です。

ハイブリッド検索(=Web検索+社内ナレッジベース検索)は、この”選択の質”を高めるための構造であり、企業の思想と市場戦略を反映させる要所です。

🔍 ハイブリッド検索とは?

ハイブリッド検索は、AIが回答を生成する際に、外部情報(Web)と内部情報(自社データ)を統合的に参照する仕組みです。

たとえば、

最新トレンドはWeb検索で取得し、
自社の過去分析や顧客データはナレッジベースから参照し、
それらを統合して、“今の自社の文脈での最適解”を出す。

この「統合のバランスこそが独自性」であり、AIの解答の方向性=自社の思想と言っても過言ではありません。

🎯 自社のポジションを決める3つの調整軸

ハイブリッド検索で”どんなAIになるか”を決めるのは、この3つの軸です。

① 情報源の優先度:何を信頼するAIにするか

AIが「外部情報」と「自社情報」をどの比率で参照するか。

この比率こそ、企業の立ち位置と信頼戦略を象徴します。

優先度設計 目的 特徴
外部情報優先(70:30) トレンド先導型 最新動向・スピード重視。スタートアップ的AI。
バランス型(50:50) 思想調和型 社内知識と外部知見のバランス。学習型組織。
内部情報優先(30:70) 信頼・文化重視型 社内ノウハウ・理念を守る”文化AI”。

たとえば「業界標準をリードしたい企業」は外部寄り、「ブランドの世界観を守りたい企業」は内部寄りにチューニングします。

② 評価基準:AIが何を”良質情報”と判断するか

ハイブリッド検索では、AIが見つけた情報をスコアリングして評価します。

このスコアリングロジックに「自社の価値観」を反映させることが、独自性の源泉です。

効率重視型:検索スコアを「最短回答時間」で最適化
共感重視型:検索スコアを「感情一致度」で評価
知識重視型:検索スコアを「情報の正確性」で評価

つまり、“何を良いとするか”を明確に定義することが、AIの人格と自社の差別化を決定づけます。

③ コンテキスト統合:どんな文脈で情報を結びつけるか

Web情報は”世界の文脈”を、社内ナレッジは”自社の文脈”を表します。

ハイブリッド検索では、この2つの文脈を統合する設計が重要です。

マーケット文脈 × 自社理念文脈
→ 「市場動向を理念に照らしてどう解釈するか」
顧客ニーズ文脈 × 自社ブランド文脈
→ 「流行を追うのではなく、ブランドらしく答える」

この文脈の掛け合わせを制御できるAIこそ、市場における「思想的ポジション」を持ったAIです。

🧭 ハイブリッド検索で狙うべきポジション

ハイブリッド検索の設計によって、企業は次のようなAI像を戦略的に選択できます。

ポジション 概要 向いている企業像
革新型RAG Web情報を積極的に取り込み、新潮流を先導する。 新規事業・スタートアップ・研究開発系
文化型RAG 社内理念と行動指針を核に、回答を一貫させる。 老舗・ブランド重視企業・教育業界
共創型RAG 内外情報を融合し、顧客やコミュニティと共に知識を育てる。 コミュニティ型ビジネス・CDE路線企業
自社らしさとは、”どの情報をどんな理由で信じるか”の設計にある

ハイブリッド検索は、AIを「正確にする技術」ではなく、“一貫した哲学を持たせる技術”です。

そしてその哲学を作るのは、企業の理念・Vision・行動基準。

つまり、

「AIが参照する情報源」=「企業が信じる世界」

「AIが生成する回答」=「企業の未来の語り方」

Difyとn8nの連携により、DifyがAIの”価値判断”を構築し、n8nが”実際の業務行動”へ接続する。

この二層構造を持たせることで、「理念が実装されるRAG」、すなわち「哲学をもったAI」を実現できます。

04:Agentic RAG ― 企業文化を理解し、自律して判断するAIへ
理念を「実装」するフェーズへ

RAGが知識を検索して答える時代から、AIが“自社の価値観”を理解し、自ら判断して行動する時代へ。

それが「Agentic RAG(エージェンティックRAG)」のフェーズです。

🤖 Agentic RAGとは何か?

従来のRAGは「質問→検索→回答」で完結する”受動型AI”でした。

しかし、次世代のRAGは「何を調べるべきか」「どの情報を優先すべきか」を自律的に判断します。

つまり、AIが単に”知っている”存在ではなく、“考え、決め、動く”存在へと進化するのです。

これにより、RAGはもはや情報システムではなく、組織の意思決定プロセスを共に担う存在となります。

Agentic RAGの構造(判断が生まれる3層モデル)

Agentic RAGは、以下の3層で構成されます。

役割 具体的な処理
① 意図層(Intent Layer) 「何をすべきか」を判断する層 問題の本質を分析し、タスクを自律生成する
② 知識層(Knowledge Layer) 「どう考えるか」を定義する層 RAG検索により、理念・ナレッジを参照
③ 行動層(Action Layer) 「どう実行するか」を制御する層 n8n等を通じ、外部システムと連携し実行
理念をAIの判断基準に落とし込む

AIが本当に「自社らしい判断」をするためには、理念を”文言”ではなく“行動ロジック”に変換する必要があります。

その方法が、理念の「条件化」です。

理念 行動ロジックへの翻訳例
「体験で人を幸せにする」 → 「顧客体験に関する質問では、感情語を優先検索」
「挑戦を称える文化をつくる」 → 「新しい概念や未知の用語を排除せず提案に含める」
「誠実な関係を築く」 → 「曖昧な回答は避け、情報源を明示する」
このように理念を”AIの行動条件”へ変換することで、RAGは理念に基づいて意思決定する存在に変わります。
自律判断の方向性:3タイプのAgentic RAG

自社の狙うポジションに応じて、Agentic RAGの判断方向も変わります。

タイプ 判断の特徴 向いている企業像
分析型RAG データや論理をもとに冷静に判断 B2B/金融/コンサル系
共感型RAG 感情・体験価値を重視し、文脈で判断 サービス業/体験提供企業
探究型RAG 未知領域に踏み込み、新しい構造を見つける 研究開発/イノベーション志向企業

当社の目指すべきは「共感型×探究型」RAGです。

つまり、AIが人の感情や体験を理解し、未知の知を共創していく――それが”人とAIの共進化”のかたちです。

Agentic RAGは「鏡」である

Agentic RAGを設計するプロセスとは、企業自身の価値観や判断軸を可視化し、再定義する作業です。

AIが理念に基づいて判断するよう設計することは、同時に「私たちは何を信じて判断しているのか」を問い直すことでもあります。

すなわちAgentic RAGとは、“AIの自律性”を通して、企業が自分の思考を深める装置”なのです。

理念がAIを動かす時代へ

Agentic RAGとは、「理念をAIが自分で解釈し、判断し、行動する」構造。

それはつまり、企業文化そのものをデジタル化する行為です。

人間が理念を考え、AIがそれを体現する。
そしてその結果を、人間が再び学び、理念を更新する。

この循環こそが、”人とAIの共進化”となります。

後編へ続く
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