購買行動を促進する消費者心理バイアスの活用方法【コンプリメントバイアスと所有効果の仕組み】
現代の消費者行動において、特定の商品を購入した後に、それに関連する他のモノを購入したくなる現象はよく見られます。
この現象は、消費者心理に基づく「バイアス」によって引き起こされるものであり、マーケティングや販売戦略においても重要な役割を果たしています。
今回は、こうしたバイアスについて詳しく探り、その影響と効果的な仕掛け方について考えていきます。
目次
物が他のモノの購買行動に影響するバイアスとは!?
消費者がある商品を購入すると、その商品の関連商品やアクセサリー、消耗品などを購入したくなる現象は、「コンプリメントバイアス(補完バイアス)」や「所有効果」などと呼ばれます。
これは、人が一度購入したモノに付随するものや、それをより快適に、または便利に使えるものを手に入れたくなるという自然な心理です。
コンプリメントバイアス
「コンプリメントバイアス」とは、ある商品を購入することが、それに関連する補完的な商品を購入する意欲を引き起こす現象です。
たとえば、新しいスマートフォンを購入すると、保護ケースや画面フィルム、充電器などを自然に求めることがあります。
これは、購入した商品を最適な状態で使いたい、あるいはその価値を最大限に引き出したいという欲求によるものです。
所有効果(エンドウメント効果)
また、消費者は自分が所有しているモノに対して愛着を持ち、それを過大評価する「所有効果(エンドウメント効果)」も存在します。
この効果によって、既に持っている商品をより魅力的に感じ、それに関連するアイテムや追加のアクセサリーを購入する動機が高まるのです。
こうしたバイアスは、企業にとっても有利に働きます。
消費者がある製品を購入した後、その製品に関連する他の商品を勧めることで、リピート購入やクロスセル(関連商品の追加購入)を促進できます。
車やバイクを購入すると、オプションパーツや消耗品を購入する
具体例として、車やバイクの購入に伴う消費行動を見てみましょう。
車やバイクを購入すると、その本体だけでなく、さらに以下のような関連商品や消耗品も購入する傾向があります。
オプションパーツ
アルミホイール、カーナビ、シートカバー、LEDライトなどの追加パーツ。
これらは、車やバイクの外観や機能をカスタマイズし、所有者の個性を反映させるために人気です。
消耗品
タイヤ、オイル、バッテリー、ブレーキパッドなど、定期的に交換が必要なアイテム。
消費者は、購入した車やバイクを最適な状態で保つために、これらの消耗品にも投資します。
車やバイクのオーナーは、一度購入すると、それに付随する製品やサービスにお金をかけることに対して心理的な抵抗が少なくなります。
これは、すでに大きな金額を支払ったため、追加で費やすコストが相対的に小さく感じられるためです。
このようにして、購入した製品を補完するアイテムの購買行動が促進されるのです。
象牙の箸の故事より
ここで、中国の有名な「象牙の箸」の故事を引き合いに出しましょう。
この故事は、物欲や贅沢が拡大していく過程を警告するもので、関連する購買行動がどのように連鎖的に広がっていくかを表しています。
中国の古代、象牙の箸を使い始めた人物が、次第にそれに見合う贅沢な食器や美食を求めるようになり、最終的には堕落してしまうという話です。
この物語は、「小さな贅沢から大きな浪費に繋がる」という教訓を伝えています。
象牙の箸を使うこと自体は小さな贅沢に過ぎませんが、それがさらなる贅沢を引き起こし、無限の欲望へと繋がっていくという考え方です。
現代においても、これは購買行動におけるバイアスの一例として見ることができます。
ある製品を購入すると、それに付随する製品やサービスが必要になり、次第に消費者の購買行動が拡大していくのです。
この連鎖的な行動が企業にとってのビジネスチャンスとなり得るのです。
体験も同じ、人は体験に満足すると繰り返すか、類似サービスも試したくなる
購買行動のバイアスは、物理的な商品に限らず、体験にも適用されます。
人は、ある体験に満足すると、その体験を繰り返すか、または類似したサービスを試したいと感じます。
例えば、旅行で素晴らしい体験をした顧客は、同じホテルや航空会社を利用したり、同様の体験を提供する他の目的地にも興味を持つことがよくあります。
レストラン体験
美味しい食事を提供するレストランで満足した顧客は、同じレストランを繰り返し利用する傾向が強まります。
また、そのレストランと提携している他のレストランや、類似した高評価の店にも足を運びたくなります。
フィットネスクラブやスパ
良い体験をした顧客は、フィットネスクラブの他のサービス(ヨガクラスやマッサージなど)を利用することが多くなります。
また、関連するウェルネスサービス(健康食品やサプリメントなど)にも興味を持つことがあります。
このように、体験に対する満足感が、さらなる購買行動を引き起こすのです。
企業は、このバイアスを活用し、顧客に一貫して良い体験を提供することで、リピーターや新たな購買行動を促進することができます。
繰り返す仕掛けと深堀させる仕掛けのナッジ
顧客が体験や購入を繰り返したくなる、あるいはより深い購買行動を促進するために、ナッジと呼ばれる心理的な仕掛けを活用することが有効です。
ナッジとは、人々が自然に行動を取るように促すソフトな介入のことを指します。
繰り返しを促すナッジ
リワードプログラム: 一定の回数を利用するごとに特典や割引が受けられる仕組みを導入することで、顧客がサービスや商品を繰り返し利用する動機付けになります。例えば、ポイントカードやメンバーシップ制度は、顧客が同じ店舗やサービスを利用し続けるよう促す強力なツールです。
リマインダーとリターゲティング: 顧客に対して、以前利用したサービスや商品についてのリマインダーを送り、再利用や再購入を促すことができます。これにより、顧客は忘れずに同じ体験を繰り返す機会を得るのです。
深堀させるナッジ
アップセルやクロスセル
購入時に「さらに上位の商品」や「関連する商品」を提案することで、顧客がより多くの製品を購入する機会を提供します。
これは、顧客の好みに基づいて適切に設計された場合、自然な形で購買行動を深めることが可能です。
パーソナライズドレコメンド
顧客の過去の購買データや行動履歴に基づき、最適な商品やサービスを提案することで、顧客が新しい商品を試すきっかけを作ることができます。
このアプローチは、顧客の満足度を高めつつ、購買を促進する強力な手法です。
まとめ
購買したり、保有するモノが他のモノの購買行動を促進するバイアスは、消費者心理に深く根ざした現象です。
物や体験に対する満足感が、さらなる購買行動を引き起こすことは多くの事例で確認されています。
このバイアスを理解し、企業が効果的な仕掛けを取り入れることで、リピーターを増やし、顧客の満足度を高めつつ、ビジネスを拡大することが可能です。
象牙の箸の故事に学びつつ、過剰な消費には注意を払いつつも、賢く設計されたナッジを用いて、顧客に対して自然に繰り返しや深堀を促進する仕組みを作り上げることが大切です。