価格決定戦略の全貌|顧客価値を高める新時代のプライシング
目次
価格決定戦略の種類について
価格決定戦略は、ビジネスにおいて収益を確保しつつ、顧客の満足度と競争力を維持するために不可欠な要素です。
以下、代表的な価格戦略について解説します。
コストプラスプライシング
コストプラスプライシングは、商品やサービスの製造にかかった原価に一定のマージンを上乗せして価格を設定する手法です。
簡単に実施できるため多くの企業で採用されていますが、価値よりもコストに重きを置くため、価格競争に陥りやすいという課題があります。
バリュー・ベース・プライシング
顧客が商品やサービスから得られる価値を基準に価格を設定する戦略です。
独自性や付加価値が高い商品に有効で、顧客の満足度と収益の両立が図れます。高級ブランドや特別なサービスで多く使われます。
ダイナミックプライシング
需要や供給、季節や天候、時間帯に応じて価格を変動させる手法です。
航空券やホテル予約などの業界で利用され、需要が高い時期に価格を引き上げることで収益を最大化します。
競争価格戦略
市場の競合他社の価格に合わせて設定する方法です。
特に競争が激しい市場で採用されやすく、顧客の獲得に注力する際に有効です。
ただし、価格競争による利益率の低下には注意が必要です。
市場浸透価格(Penetration Pricing)
概要:新しい市場に進出する際、低価格で商品やサービスを提供し、短期間で市場シェアを拡大する戦略です。
多くの消費者に手に取ってもらい、ブランドや商品の認知を高めることが主な目的です。
例:通信サービスのプロバイダーが、新規顧客に対して初年度の利用料金を低く設定し、契約者数を増やす場合など。
スキミング価格(Skimming Pricing)
概要:新しい商品や技術を市場に投入する際、最初は高い価格を設定し、早期購入者の需要を取り込んだ後に価格を徐々に引き下げる戦略です。
イノベーション商品や高付加価値商品によく使われます。
例:新しいスマートフォンが発売される際、初期のプレミアム価格を設定し、競争が激しくなる前に収益を確保する手法。
プレミアム価格(Premium Pricing)
概要:商品の高品質やブランド力を前提に高価格を設定する戦略です。
ラグジュアリーやプレミアムなイメージを訴求し、価値志向の顧客に訴求します。
例:高級ファッションブランドや化粧品ブランドがこの戦略を採用し、高価格でブランド価値を保つ場合。
バンドル価格(Bundle Pricing)
概要:複数の商品やサービスをセットで提供し、個別に購入するよりも安価にする戦略です。
バンドル価格を設定することで、顧客は商品をお得に感じ、企業側も売上の増加を図ることができます。
例:ソフトウェア会社が、単品ソフトよりも複数ソフトを含むパッケージを割引価格で提供する場合。
フリーミアム戦略(Freemium Pricing)
概要:基本サービスを無料で提供し、追加機能やプレミアムサービスに料金を設定する戦略です。
無料ユーザーを通じてブランドやサービスの認知を広め、有料ユーザーに転換することを狙います。
例:多くのアプリやクラウドサービスがこの戦略を採用し、無料版と有料版を用意することで収益を上げています。
心理価格(Psychological Pricing)
概要:顧客の心理に働きかけるような価格設定で、特に「99円」や「98円」のような端数価格を設定する手法が代表的です。
これにより顧客に「安い」と感じさせる効果があります。
例:980円の商品が1,000円に比べて割安に見えるようにするなど、スーパーや小売店でよく使われる手法。
キャプティブ価格(Captive Product Pricing)
概要:メイン商品の価格を低く設定し、関連する補完商品で利益を上げる戦略です。
プリンターとインクカートリッジ、コーヒーメーカーと専用カプセルなどの例が典型です。
例:プリンターを安価に提供し、定期的に交換が必要なインクカートリッジを高価格で販売することによって収益を確保する。
アンカー価格(Anchor Pricing)
概要:高価格商品を提示することで、その次に並べられる商品が「割安」に感じられるようにする戦略です。
最初に高価格の「アンカー(基準)」を提示することで、顧客が選ぶ商品が実際よりもお得に見える効果を狙います。
例:レストランのメニューで、最初に高価格なメニューを提示することで、通常メニューが割安に感じられるようにする場合。
これらの戦略はビジネスや市場状況に合わせて使い分ける必要があり、目的に応じた適切な価格設定が企業の成長につながります。
なぜ人は、コストプラスプライシングから抜け出せないのか?
コストプラスプライシングは、多くの企業で最も採用される方法ですが、顧客に価値を見出してもらうことが重要な現在のビジネス環境では課題が多い戦略です。
では、なぜ企業はこの方法から抜け出せないのでしょうか。
簡便性が高い
コストに一定のマージンを加えるだけで価格設定ができるため、手間が少なく、特に中小企業ではコストプラスプライシングが使いやすいとされています。
競合状況や市場調査を行わなくても設定できるため、すぐに利益計算が可能です。
経営層にとってリスクが低い
市場の変動に影響を受けにくく、安定的な収益を見込めるため、経営層にとってリスクが少ないと感じられることが多いです。
また、具体的な数字が見えることで、財務管理がしやすいという側面もあります。
顧客が求める価値の把握が難しい
バリュー・ベース・プライシングのように顧客価値を基準にした価格設定には、顧客のニーズを深く理解する必要があります。
これは簡単な作業ではなく、市場調査や顧客分析が不可欠です。
こうしたリサーチに投資するリソースがない企業は、コストに基づいた価格設定に頼る傾向があります。
一方で、コストプラスプライシングから抜け出せない企業は価格競争に巻き込まれやすく、収益率が低下するリスクを伴います。
顧客に価値を提供し、長期的な関係を築くためには、コストではなく「価値」に注目する視点が求められるのです。
価値を高めていくための手法やインフレとの関係
価格を「価値」に基づいて設定するバリュー・ベース・プライシングでは、顧客が求める価値を高めていくことが重要です。価値を高める方法はいくつかあります。
差別化されたサービスや品質の向上
商品やサービスの品質を改善したり、独自性を強化することで、顧客にとっての価値を向上させます。たとえば、製品の耐久性や利便性、デザイン性を強化することが効果的です。
ブランド価値の向上
ブランドの信頼や認知度を高めることで、顧客が支払う価値の感覚を上げることができます。
広告戦略や顧客とのコミュニケーションを通じて、ブランドへの愛着を高めることが価値向上につながります。
アフターサービスやサポートの充実
購入後のサポートや保証制度を充実させることで、顧客に安心感を提供し、商品やサービスの価値を高めることができます。
インフレとの関係
インフレが進むと、コストが増大し、従来のコストプラスプライシングでは利益確保が難しくなります。
一方、バリュー・ベース・プライシングでは、提供する価値が強いほど価格を維持しやすくなります。
特にブランドやサービスで強い価値提案を持つ企業は、インフレによるコスト上昇に影響を受けにくく、安定した収益を確保できるのです。
こうした手法を駆使して顧客が感じる価値を高めることで、価値に基づいた価格戦略を強化し、長期的な成長が見込めます。
コミュニティ・ドミナントロジックでコミュニティへの貢献者への優遇
近年、顧客や利用者が価値の一部を創出する「コミュニティ・ドミナントロジック(Community Dominant Logic)」の考え方が注目されています。
これは、顧客や利用者がコミュニティの一員として企業に協力し、サービスの改善や価値創出に貢献することを前提とした考え方です。
例えば、製品のフィードバックを提供する顧客や、SNSでの口コミを発信するユーザーなど、コミュニティ全体で企業の価値を共創するイメージです。
この考え方に基づき、企業は貢献度の高い顧客に優遇策を設けることで、さらなる価値創造と顧客ロイヤルティの向上を目指すことができます。
貢献者への優遇措置
コミュニティへの貢献者に対して特別な優遇措置を提供することで、ブランドのロイヤルティを高め、コミュニティ内での影響力を増します。
たとえば、製品のアンバサダー制度を導入したり、SNSでの拡散に対する特典を設けたりすることで、コミュニティ全体が価値を高める方向に向かいます。
バリュー・ベース・プライシングとの関連性
この戦略を取り入れることで、コミュニティ内で提供される「価値」が強化され、バリュー・ベース・プライシングをより実現しやすくなります。
コミュニティからの高い評価や口コミは、新規顧客への強い価値提案となり、単なる価格競争を回避する助けにもなります。
コミュニティ・ドミナントロジックは、顧客と企業が共に価値を創り出す新しい価格戦略であり、今後のビジネスモデルにおいても重要な要素となるでしょう。