野中郁次郎氏が残した痕跡|知識経営の未来


目次
2025年1月25日|野中郁次郎氏が肺炎のために死去


2025年1月25日、経営学世界に多大な影響を与えた野中郁次郎氏が肺炎のため死去しました。
彼は「知識創造理論(SECIモデル)」を提唱し、企業経営における知識共有その重要性を説いた日本を代表する経営学者です。
その業績は、ビジネスの世界に留まらず、マーケティングや組織運営など、多くの分野に影響を与えました。
彼が残した知識と理論を振り返りながら、その痕跡が現代ビジネスにどう息づいているのかを考察してみよう。
野中郁次郎氏は、1935年生まれ、日本の経営学を世界レベルに押し上げた人物の一人です。
彼の研究は、企業経営における「知識の創造と共有」をテーマにしたものです。
現在の業績を語る上で最も重要なのが、「知識創造企業(The Knowledge-Creating Company)」や「失敗の本質」といったものです。
これらの理論は、日本企業の経営モデルを分析し、成功と失敗の損失を体系化することで、多くのビジネスパーソンに影響を与えました。
「失敗の本質」や「知識創造企業」などの名著


野中郁次郎氏が世に送り出した名著の中でも、特に注目すべきは「失敗の本質(1984年)」「知識創造企業(1995年)」です
「失敗の本質」——日本軍の組織論から学ぶ教訓
この著書では、太平洋戦争における日本軍的な戦略的失敗を分析し、日本の組織が驚くべき構造課題を浮き彫りにしました。
トップダウン型の硬い直的な意思決定といった問題点を浮き彫りにすることができました。
「知識創造企業」——知識を経営資源として活用するモデル
一つは、「知識創造企業」では、日本企業の強みを分析し、組織内で知識をどのように創造し、共有し、活用するかを理論化しました。
SECIモデル(共同化→表出化→連結化→内面化)は、知識経営(ナレッジマネジメント)と言われる経営手法です。
経営資源(ヒト・モノ・カネ・データ)の中でも目に見えない知識やノウハウといったデータに注視しています。
このモデルは、企業が知識を暗黙知から形式知へと変換し、組織全体で共有することで持続的な革新を戦略的に説明したものです。
現代のデジタル社会においても、この考え方は非常に有効であり、多くの企業が採用しています。
知識・経験の共有を説く、知識経営(ナレッジマネジメント)に大きな影響


野中郁次郎氏の研究の中核をなすが、「知識経営(ナレッジ・マネジメント)」という概念です。
彼は、企業が持続的に成長し、競争優位を確立するためには、無意識情報の管理ではなく、知識や経験を組織内で共有し、新たな価値を生み出すことが大事です。
この考え方は、現代の企業経営において重要な役割を果たし、様々な業界で取り入れられています。
では、彼の知識創造理論がどのようにビジネスの現場の事例を用いて紹介します。
トヨタの「カイゼン活動」
トヨタ自動車は、現場の作業員が日々の業務改善(カイゼン)を提案し、それを組織全体で共有する文化を持っています。
これは、共同化(現場での体験共有)→ 表化(改善提案の仕組み化)→ 連結化(他の工場への展開)→ 内面化(企業文化として定着)という「SECIモデル」に合致しております。
Googleのナレッジ・シェアリング
Googleでは、社内での知識共有を重視し、「TGIF(Thanks Google, It’s Friday)」という全体共有を仕組み化しています。
Googleのアプリを使って社内の知識や経験、ノウハウなどを共有することです。
GoogleドライブやGoogleドキュメント、Googleスプレッドシート、Google Sitesなどのツールを活用することで、業務効率化や属人化の防止、イノベーションにつながります。
知識や経験の共有は、経営だけにはとどまらない、マーケティングの領域へ


知識経営の概念は、企業内の知識共有に存続せず、マーケティングの分野にも応用されえいます。
SNSマーケティングと「共創」
現在のマーケティングでは、企業が一方的に情報を発信するのではなく、消費者とともに価値を創造するという共創価値マーケティングという手法も生まれています。
カスタマーデータの活用とパーソナライズ化とメディアへの昇華
個人の体験価値を可視化し、他者と共有することで、個人の体験がメディアになります。
良い体験をし、他者と共有することでさらに良い体験の連鎖が始まり、体験自体の価値が高まります。あなたの体験が広告して価値が生まれるというものです。
ブランドと顧客のナレッジ・シェアリング
AppleやNikeのようなブランドは、同一製品販売に存続せず、コミュニティを作り、顧客同士が知識を共有できる場を提供しています。
これは新商品開発に繋がります。
次世代のマーケティング概念の創出(PDRM)
PDRM(パーソナルデータリレーションシップマネジメント)の概念
PDRMでは、顧客が自身のデータを提供することで、企業はより個別化されたサービスを提供できるようになります。
例えば、好みに応じたレコメンドや、パーソナライズされたプロモーションが可能になります。これにより、企業と顧客の関係はより一層、双方にとってメリットのあるマーケティングが実現するのです。
PDRMはナレッジマネジメントを基礎概念にし、発展させたものです。
まとめ|野中幾次郎氏が遺した知識経営の遺産
野中郁次郎氏の知識創造理論は、企業経営のみならず、マーケティング、組織運営、イノベーションなど、幅広く活用されています。
📌 消費者の体験をメディア化し、新たな訴求へ
📌 ブランドコミュニティを通じたナレッジ・シェアリングによる商品開発
📌 PDRMによるデータ活用の進化で、ライフスタイルの向上
まさに企業知(組織知)だけではなく、企業は、顧客と共に価値を創造し、社会知と言える大きな可能性を秘めているのです。