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2025.07.11

構造化する“人”の力(第8回・最終回)経営とは、選択を設計することである

経営とは、日々の“選択”の連続である

経営を語るとき、私たちはよく「戦略」「組織」「制度」といった枠組みに注目します。
しかし、その本質を掘り下げていくと、シンプルで根源的な問いにたどり着きます。

──人は、どんなときに、どう選ぶのか?

組織とは、突き詰めれば「人の選択の集合体」です。

行く、止まる、話す、辞める、提案する、黙る──
日々のなにげない選択が、組織の空気や成果を大きく左右しています。

だからこそ、経営者にとって最も重要な仕事は、
「人が、よりよい選択をしやすくなる環境=“選択アーキテクチャ”を設計すること」なのです。

人の選択を左右するのは「感情」と「構造」

人の選択は、一見すると合理的に見えるものの、実際にはとても感情的です。

そのときの安心感や不安、自己肯定感、信頼、予測可能性──
さまざまな「見えない要因」が、選択の背後には存在しています。

そして、こうした感情は、
仕組み・習慣・言語・空気感といった構造によって形づくられます。

だからこそ経営とは、
意志ある選択」を支える構造をデザインする営みなのです。

経営は“選択アーキテクチャ”で組み立てる

本シリーズで扱ってきた要素は、いずれも「選択の質」を高めるための設計でした。

以下の設計要素をご覧ください。

設計対象
人の行動に与える影響
ビジョン・理念
なぜ動くのか(意味)を明確にする
感情設計
安心・共感・誇りを育み、動機をつくる
ナッジ設計
動きたくなる自然な仕掛けを用意する
メタ認知
自分の選択を自ら問い直す力を育む
出口戦略
今この場にいることの“意味”を強化する
ブランド構造
社外からの共鳴と社内の一体感を生む磁場

これらはすべて、
人が自分自身で選び、よりよい意思決定をできるようにするための仕組みと言えます。

つまり、経営や組織づくりとは、単にルールや仕組みを与えることではなく、人が自律的に動き出せる環境を創ることに他なりません。

そのために、感情や意味、習慣など多様な側面を統合しながら、選択の可能性を広げる設計を積み重ねていく必要があるのです。

経営者は、“選択の場”をつくる建築家

人は、選択の環境によって大きく変わります。

同じ人でも、信頼されている場所では挑戦する意欲を持ち、疑われている場所では口を閉ざしてしまいます。

つまり、人の可能性は構造によって解き放たれることもあれば、制限されてしまうこともあるのです。

だからこそ、経営とは、可能性を開く構造をデザインする、まさに選択の建築家であると言えます。

人的資本とは、“自ら選べる人”を増やすこと

人的資本経営とは、単に「人を活かすこと」ではありません。
人が自分自身を活かせる環境を設計することこそが、本質です。

さらに言えば、自分で選び直せる人を増やすことに他なりません。

そんな組織は、自律的に動き、変化にも強く、信頼される存在となります。

経営とは、人を支配することではなく、人の意思と行動を信じて、選びやすさを構造として整えていくことです。

本シリーズが、あなた自身とあなたの組織が“よりよい選択をするためのヒントとなれば幸いです。

参考文献・関連資料

以下は本シリーズの思想や理論背景として参考にした文献・リサーチ・概念群です:

思考・構造・選択アーキテクチャ関連

  • Richard Thaler, Cass Sunstein『実践 行動経済学 “Nudge”のつくり方』
  • Daniel Kahneman『ファスト&スロー』
  • James Clear『Atomic Habits(アトミック・ハビッツ)』
  • Chip Heath & Dan Heath『スイッチ! 変われないを変える方法』
  • 増田貴之『選択アーキテクチャ入門』
  • 渡辺正峰『選択の科学』

感情デザイン・共感・感情資本

  • Brené Brown『The Power of Vulnerability』
  • Marc Brackett『Permission to Feel』
  • ダニエル・ゴールマン『EQ こころの知能指数』
  • 細谷功『地頭力を鍛える』

人的資本経営・組織論・ブランド

  • 経済産業省『人的資本経営の実現に向けた検討会報告書』
  • McKinsey & Company『The State of Organizations 2023』
  • Simon Sinek『Start With Why』
  • 田中弦『Purpose Driven 経営』
  • 一橋ICS 藤本隆宏 教授による組織設計論

実務・制度設計・ナッジ活用

  • 小室淑恵『働き方改革の資本論』
  • IDEO.org『The Field Guide to Human-Centered Design』
  • Behavioral Insights Team (BIT) レポート
  • 経営者向け1on1・フィードバック文化導入ガイド(社内資料)