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異業種のビジネスモデル分析|第5回:上等カレーの「逆張り型ランチ戦略」を読む

上等カレービジネスモデル分析
オフィス街のランチタイムに、行列をつくる一皿があります。それが大阪・福島発の「上等カレー」。創業者・瀬戸口勝幸氏が「食材も、味も、上等でありたい」という想いを込めて立ち上げたブランドは、今や関西のビジネス街を中心に確かな存在感を放っています。ドミナント戦略による地域集中展開、そして「カレーがなくなり次第終了」という職人気質の経営方針——。全国チェーン「ココイチ」とはまったく異なるアプローチで、上等カレーは”地域の昼食文化”そのものをつくり上げてきました。本稿では、そんな上等カレーのビジネスモデルを、同じ得正グループの「カレーうどん」との関係や、競合との比較を通して分解していきます。

上等カレーのビジネスモデルとは|ランチタイム集中×ドミナント戦略

夜も宅配も捨てて、昼だけで勝負する
逆張り型ビジネスモデル

大阪・福島発の「上等カレー」は、創業者・瀬戸口勝幸氏が”食材も味も上等でありたい”という信念のもと立ち上げたブランド。濃厚でスパイシーな味わいは、関西のオフィス街ランチの象徴として定着しています。

このブランドを際立たせているのが、“昼の3時間だけで完結する”営業設計です。

⏰ 営業時間:11:00〜16:00
(カレーがなくなり次第終了)
定休日:日曜・祝日

つまり、夜営業もアルコール販売も宅配展開も行わない——通常の飲食店とは真逆の発想で成り立っているのです。

徹底した昼特化がもたらす3つの優位性

👨‍🍳
仕込み品質の維持

毎朝の仕込みで当日分のみを提供。鮮度と品質を最高水準で保持

💰
コスト効率化

人件費・光熱費を昼の時間帯に集約。無駄のない経営を実現

🔄
高回転率

オフィス街の顧客が短時間に集中。効率的な席の回転で利益を確保

上等カレーは、「昼の高回転」だけで利益を成立させる稀有なモデルです。この戦略により、夜営業を行う店舗よりも高い利益率を実現しているとされています。

ドミナント戦略による地域浸透

上等カレーは関西エリア、特に大阪を中心に集中出店するドミナント戦略を採用しています。全国展開ではなく、特定地域に密度高く出店することで、以下のメリットを享受しています:

物流コストの削減(ルウの製造・配送が効率的)
ブランド認知の集中投下(地域内での知名度向上)
オペレーション管理の効率化(店舗間のノウハウ共有)
顧客の利便性向上(複数の店舗が選択肢に)

行列をつくるカレーうどん「得正」|オフィス街で勝負する同グループの戦略

上等カレーを展開するのは「カレーうどん得正」で知られる得正グループ。実はこの得正も、同じく昼中心・16:00閉店・日祝休みという営業スタイルを採用しています。

夜に広げるより、昼に磨く——これが得正グループ全体に通底する経営哲学です。

両ブランドに共通する思想は明快です。通常の飲食店が”夜のドリンク利益”を柱にするのに対し、得正グループは“昼の提供スピードと回転率”に集中。仕込み〜提供〜閉店までを昼に完結させることで、職人の労働リズムと品質管理の最適化を実現しています。

2ブランド戦略のメリット

カレーうどんの「得正」とカレーライスの「上等カレー」を並行展開することで、以下の相乗効果を生んでいます:

・顧客の選択肢を広げ、リピート率を向上

・ルウ製造など共通部分でのコスト削減

・「カレー専門」としてのブランド力強化

・異なる気分やニーズに対応し、市場を拡大

三層構造で支えるブランド|製造・本体・FC連携の巧みさ

上等カレーは一見シンプルなカレー店に見えますが、その裏側は、製造・本体・加盟店が連携する三層構造になっています。

構成要素 役割 主体企業
製造・供給 ルウ製造・商標管理 株式会社KOC
店舗運営(直営) カレーうどん・上等カレー展開 得正株式会社
加盟店(FC) 地域運営・独自営業 地方加盟企業/個人経営

三層構造がもたらす強み

この仕組みにより、味の一貫性 × 運営の自由度を両立しています。KOCが品質を担保し、得正が現場オペレーションを管理する。さらに一部は地域加盟店として展開し、「緩やかに広がる職人ブランド」の姿を実現しています。

三層構造の利点

品質の統一:ルウを一元管理することで味のブレをなくす
オペレーションの柔軟性:地域特性に応じた運営が可能
リスク分散:直営とFCを組み合わせることで成長速度を調整
ブランド保護:商標管理により模倣を防止

ココイチとのビジネスモデル比較|拡大より浸透を選んだ経営哲学

上等カレーを全国チェーン「CoCo壱番屋」と比較すると、哲学の違いが際立ちます。

上等カレー/得正
削ぎ落とす経営

出店戦略:関西ドミナント集中

営業時間:昼中心(11〜16時)

定休日:日・祝休み

利益構造:昼の高回転一本

運営思想:職人集中・効率追求

人員構成:省人化(2〜3名)

CoCo壱番屋
広げる経営

出店戦略:全国・海外展開

営業時間:通し営業(深夜含む)

定休日:年中無休

利益構造:食事+トッピング+宅配

運営思想:分業型・標準化モデル

人員構成:多数(多様な業務分担)

ココイチは”宅配・持ち帰り・深夜営業”を組み合わせた全国インフラ型チェーン。一方、上等カレーは、「昼だけ」「地域だけ」「職人だけ」に絞り込んだ超集約型ブランドです。

ココイチが「広げる経営」なら、上等カレーは「削ぎ落とす経営」。この対比こそ、異業種研究として極めて示唆に富んでいます。

それぞれの成功要因

両者は対照的な戦略を取っていますが、どちらも明確な成功を収めています。重要なのは、自社の強みと市場のニーズを見極め、一貫した戦略を貫くことです。

カレー市場の棲み分け|競合しているようで補完し合う関係性

カレー業界は一見競合が多いように見えますが、実際は”棲み分け”が成立しています。

カレー市場の多様性

スパイスカレー、欧風カレー、家庭風カレー——それぞれが違う時間・気分・場所で選ばれます。上等カレーはその中で、「昼・速・安定」というポジションを確立しました。

「昨日はスパイス、今日は上等、明日はココイチ」というリズムの中に自然に組み込まれる存在です。これは競合というより、補完関係に近い構造です。

なぜ共存できるのか

異なる体験価値:スピード重視、味重視、カスタマイズ重視など
時間帯の棲み分け:昼専門、終日営業、夜遅くまでなど
価格帯の違い:ワンコイン、ちょい贅沢、高級志向
立地の最適化:オフィス街、駅前、住宅街など

カレーという料理は、日本人にとって「日常食」であり「ソウルフード」です。だからこそ、多様なニーズが存在し、複数のブランドが共存できる市場となっています。

まとめ|夜も宅配もやらない。それでも勝てる。

飲食業の常識では、「夜営業」と「ドリンク・宅配販売」が利益の柱とされています。

しかし、上等カレーはその構造をあえて捨て、昼だけで利益を完結させる高効率経営を実現しています。

夜を捨てて、昼を極める。
——それが、”上等”という名にふさわしい経営の美学です。

上等カレーのビジネスモデルから学ぶポイント

制約を強みに変える:営業時間を絞ることで品質と効率を両立
ドミナント戦略の威力:地域集中でブランドを浸透させる
三層構造の巧妙さ:製造・運営・加盟のバランスでスケール
明確な差別化:大手チェーンとは真逆の戦略で独自ポジション確立
市場の補完性:競合より共存を目指す柔軟な発想

全国展開を目指さず、夜営業もせず、宅配もしない——一見すると機会損失に思えるこの戦略が、実は上等カレーの最大の強みです。「やらないことを決める」勇気と、「やることを極める」執念。この両輪が、関西のオフィス街に確固たるブランドを築き上げました。

ビジネスモデルに正解はありません。しかし、自社の強みを理解し、明確な戦略のもとで一貫した経営を続けることが、成功への道であることを、上等カレーは教えてくれます。

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