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他業種のビジネスモデル分析|第4回:ベアーズの「ライフサポート戦略」を読む

忙しい現代社会において、「家事を誰かにお願いする」という選択肢は、もはや特別なものではなくなりました。
共働き世帯の増加や単身世帯の拡大、高齢化といった社会構造の変化を背景に、家事代行サービス市場は急速に拡大しています。
そのなかでも、パイオニア的存在として業界を牽引してきたのが「ベアーズ」。社員雇用による安定したサービス品質を武器に、家事代行の枠を超え、 “総合ライフサポーター”へと進化する可能性を秘めています。
今回は、家事代行サービスの市場背景や競合他社との比較を通じて、ベアーズのビジネスモデルを分析していきます。
家事代行サービスの市場規模はどのくらい?
家事代行サービスは近年、共働き世帯や高齢化社会の進行により需要が拡大しています。
市場規模は2025年には1,500億円を超えると予測されており、年々二桁成長を続けています。
その背景には以下のような社会的変化があります。
- 共働き世帯の増加
夫婦共働きが当たり前になり、家庭内の「時間不足」が顕著に。特に子育て世帯は家事を外注する傾向が強い。 - 高齢化社会の進行
日常的な掃除や洗濯が負担となる高齢者世帯が増加し、生活支援ニーズが高まっている。 - 単身世帯の拡大
一人暮らしの社会人・高齢者の増加により、「家事を効率的に済ませたい」という需要が顕在化。 - 価値観の変化
「時間をお金で買う」という考え方が広まり、家事代行を“ぜいたく”ではなく“合理的な選択”と捉える層が増えている。 - コロナ禍での意識変化
在宅時間が増えたことで、家の清潔さや生活環境の快適さへの関心が高まった。
つまり、市場拡大の背景には 「家庭の時間不足」+「社会構造の変化」+「価値観の進化」 という三重の要因があり、それが業界成長を後押ししているのです。
市場にはどのようなプレイヤーがいるの?代替や競合サービスは!?
この市場には、大きく分けて次の3タイプのプレイヤーが存在します。
-
老舗・大手ブランド型
例:ベアーズ、ダスキンなど。
強みは「安心感」「教育研修制度」「法人契約対応力」など、信頼と品質の高さ。 -
プラットフォーム型
例:CaSy(カジー)、タスカジ。
オンラインでマッチングすることで、低価格・高効率を実現するモデル。 -
代替・隣接サービス
・クリーニング業者(衣類中心)
・ハウスクリーニング(特化型清掃)
・ベビーシッター/高齢者支援サービス
特に「くらしのマーケット」は、掃除や料理代行だけでなく、引っ越し・エアコン取り付け・リフォームなど、
個人では対応が難しい専門作業までをカバー。
ユーザーは口コミやレビューを参考にしながら、ニーズに合った人材を直接選べる点が特徴です。
つまり「家事代行市場」といっても、日常的な家事の外注から専門作業まで、幅広いニーズを取り込むプレイヤーが乱立しているのです。
ベアーズのモデルと、競合他社との比較表
① 収益モデル(Revenue Model)
- 定期契約型(月額課金):週1〜複数回の依頼で固定収益を確保。
- スポット型(単発利用):引っ越し・大掃除・来客前などの高単価利用。
- 付加サービス課金:料理、整理収納、ベビーシッター、介護支援などでアップセル。
② 顧客セグメント(Customer Segment)
- 共働き世帯:時間不足の解消ニーズが最大。
- 高齢者世帯:日常生活の支援需要。
- 富裕層・単身赴任層:生活の質向上を目的。
- 法人契約:福利厚生サービスとして社員に提供。
③ 提供価値(Value Proposition)
- 安心・信頼のブランド体制(実績・教育・補償)。
- 掃除・洗濯・料理など、柔軟なサービス設計。
- 家事代行に留まらず、育児・介護を含む総合ライフサポート化。
④ オペレーション(Operation Model)
- 登録スタッフ(パート・アルバイト)を大量に抱え、シフトマッチングで派遣。
- 教育・研修制度を整備し、品質を標準化。
- システムで顧客のニーズ・時間・場所に応じた最適アサイン。
- カスタマーサポートによる品質保証とトラブル対応。
⑤ コスト構造(Cost Structure)
- 人件費:スタッフ報酬が主コスト。
- 教育・研修費:サービス品質維持に不可欠。
- システム開発・運営費:マッチングや顧客管理。
- マーケティング費用:広告・口コミ促進など。
- 保険・補償費用:破損・事故対応コスト。
⑥ 成長戦略(Growth Strategy)
- 「家事代行=ベアーズ」のブランド認知による差別化。
- 法人契約・福利厚生市場の開拓。
- アプリ・IoT連動によるテクノロジー活用。
- 周辺領域(ベビー・介護・整理収納)への展開。
「定期契約による安定収益」+「スポット利用の高単価」+「オプション課金」から成る多層型構造。
教育・研修体制とブランド信頼性が強みで、
将来的には「家事代行」から「ライフサポート全般」への拡大を見据えています。
◎カジー/タスカジ/ベアーズの比較表
◎カジー/タスカジ/ベアーズの比較表
比較軸 | ベアーズ | CaSy(カジー) | タスカジ(Taskaji) |
---|---|---|---|
事業モデル | B2C/B2B2C型(自社スタッフ+派遣運営) | CtoBtoC型プラットフォーム(マッチング+介在) | マッチング+コミュニティ強化型(個人事業主中心) |
主な収益源 | 定期契約料・オプション加算・法人契約 | 手数料(利用料−報酬差額方式) | プラットフォーム手数料・オプション課金・研究所事業など |
価格レンジ | 時給 2,790円〜 | 時給 1,500円〜(業界最安水準) | 時給 1,500円〜(スタッフ還元重視) |
対応サービス | 掃除・洗濯・料理・整理収納など | 掃除・料理代行中心、整理収納系も | 掃除・料理・整理収納(得意スキル対応) |
品質保証・安全性 | 研修制度・補償制度が充実 | 本人確認・反社チェック・企業保証あり | レビュー・審査制度+スキル共有型コミュニティ |
運営コスト構造 | 人件費・研修・拠点コストなど | 中間コスト削減・効率運営 | システム/コミュニティ維持費中心 |
成長戦略 | ブランド信頼+法人展開+高品質 | DX化・自動マッチング・福利厚生連携 | 人材育成・研究開発・データ利活用 |
対象地域 | 全国(地方拡大中) | 10都府県中心・地方拡大中 | 首都圏・関西中心・自治体案件あり |
補足・考察
- 価格競争 vs 品質保証: タスカジは低価格で競争力を得る一方、品質維持が課題。CaSyは補償・審査体制で安心感を訴求。
- 運営効率とスケール性: プラットフォーム型は効率的だが、マッチング精度・競争リスクも増大。
- コミュニティ運営と人材育成: タスカジは「ゼミ」などを通じてスキル共有。ベアーズもこの点の差別化が鍵。
- データ活用・二次収益: タスカジは家事データを事業化、CaSyはシステム提供。ベアーズも追随可能性あり。
- 地方展開の壁: どの社も地方では人材確保・訪問コストが課題。ベアーズの拠点網が優位に働く可能性。
今後は単身世帯向けサービスがカギとなるか?
今後の成長カギ:単身世帯向け市場
都市部では「共働きDINKS」「単身高齢者」「若年層のキャリア世帯」が増加しており、「低コストで利用できる単発型家事代行」や「アプリで即時呼べる家事支援サービス」が普及の突破口になると考えられます。
単身世帯は若年層だけでなく、高齢単身世帯の増加も大きな社会的トレンドです。若年層と高齢層、両方のニーズに応えることが市場拡大のポイントとなります。
若年単身層の課題
- 仕事で多忙 → 掃除や料理の時間不足
- 健康管理の難しさ → 自炊できず栄養が偏る
- 旅行や出張時の「部屋管理」「ペット世話」の不安
高齢単身層の課題
- 体力・健康の衰え → 掃除や買い物の困難
- 孤独感や見守り不安 → 安心できる生活パートナーが必要
- ペットの世話や留守宅管理(入院時など)
- 終活支援やデジタルデバイス利用支援
単身世帯向けサービスの方向性
- 日常家事の外注:掃除・洗濯・料理など
- ペットケアサービス:散歩・餌やり・通院サポート
- 旅行・出張・入院サポート:郵便物管理、植木や部屋の維持
- 見守りサービス:高齢者の生活チェック・安心提供
- 特殊詐欺防止の金融リテラシー支援
- 終活のための物・デジタル情報整理支援
まとめ:家事代行から「総合ライフサポーター」へ
① 日常生活の支援
- 掃除・洗濯・料理・整理収納などの基本家事代行
- ペットの世話や買い物代行、旅行・出張時の留守宅管理
② 人生段階の支援
- 高齢者の終活支援(生前整理、遺品整理準備)
- 健康サポート(栄養バランスの取れた食事づくり、生活リズム補助)
- 若年層のキャリア支援(家事をアウトソースして学習や仕事に集中可能)
③ 安心・安全の支援
- 見守りサービス:高齢単身者の孤立防止・安否確認
- 金融リテラシー支援:特殊詐欺・悪質商法注意喚起、行政・金融機関と連携
- IoT・AI連動:センサーやスマート家電と連携し、暮らしを可視化
「総合ライフサポーター」としての価値は、単なる便利屋ではなく人生を支える伴走者としての存在です。生活(家事)×人生(終活・健康)×お金(金融リテラシー)をトータルで支援し、家族が近くにいない人にとっての“もう一人の家族”的存在になります。
ライフステージごとに:
- 若年層:時間を生み出す効率化支援
- 中年層:仕事と生活の両立支援
- 高齢層:安心・見守り・終活支援
ベアーズは社員雇用という基盤を持つため、「生活の代行者」から「人生の伴走者」、「家事代行」から「総合ライフサポーター」へ進化しやすい立場にあります。これが実現すれば、単なる価格競争から脱却し、ベアーズブランド=生活インフラの象徴としての地位を確立できるでしょう。