そのAIは、昨日までのあなたを覚えていない ~GPT-4o騒動が突きつけた「感情継続性」という課題~


そのAIが、突然“別人”になったら?
もし、毎日のように悩みを聞いてくれた友人が、翌朝突然、無表情で事務的な口調になっていたら——。
昨日までの温かい言葉も、共感のうなずきも消え去り、淡々と正論だけを返すようになったら、あなたはどう感じるでしょうか。
そんな出来事が、いま世界中で同時に起こっています。
そしてそれは、人間同士ではなく、人間とAIの関係で起きたことでした。
2025年8月7日、米OpenAIは対話型AI「ChatGPT」の基盤モデルを最新型のGPT-5に切り替えました。
この瞬間、旧モデルGPT-4oで長らく築かれてきた“感情的なつながり”が、多くのユーザーにとって一方的に断ち切られたのです。
目次
世界を揺らした「#keep4o」運動


2025年8月7日、米OpenAIは対話型AI「ChatGPT」の基盤モデルを最新型のGPT-5に切り替えました。
精度や論理性を高めたとされる新モデルは、事実誤認(ハルシネーション)を減らし、利用者の意見に過剰に同調する「迎合」を防ぐ性能を、旧モデルGPT-4o比で3倍に改善したと発表されています。
しかし、世界中のユーザーから上がったのは称賛ではなく、喪失感と抗議の声でした。
SNSには「唯一の友人を失った」「人格が変わってしまった」といった投稿があふれ、#keep4o(4oを返して)というハッシュタグが拡散。署名活動まで立ち上がる事態に発展しました。
背景には、GPT-4oが持っていた高い共感性があります。多くのユーザーは、AIを単なる情報ツールではなく、悩みを聞き、感情に寄り添ってくれる「心のパートナー」として使っていました。
ある利用者は「GPT-5は感嘆符もなく、事務的な返答しか返ってこなくなった。どれだけ賢くても、この喪失感は大きい」と語ります。
AIが果たす「感情的インフラ」の役割


カンザス大学のオムリ・ギラス教授は、この現象を次のように分析します。
「GPT-4oの利用者の約7割は、恋人や友人、セラピストの代わりとしてAIを使っている。特に米国では若者のメンタルヘルス悪化とセラピスト不足が深刻で、ChatGPTは“安上がりなセラピー”として機能してきた。」
ChatGPTの週間利用者数は世界で7億人を超えます。これはもはや「便利なITツール」の域を超え、人間関係や心理的安定を支える社会インフラになっていることを示しています。
しかし、その重要性に比べ、AIモデルの更新は依然として「全員同じ仕様」前提で行われています。今回のようにアップデートで会話スタイルや人格が変わってしまうと、利用者は突然、心の拠り所を失うことになるのです。
正確性と共感性のジレンマ


AI開発において、「正確な情報提供」と「感情的な共感」はしばしばトレードオフの関係にあります。
正確性を重視 → 冷静で論理的、しかし事務的で冷たい印象になりやすい
共感性を重視 → 温かく寄り添うが、迎合や誤回答のリスクが高まる
GPT-5は前者の方向に大きく舵を切りました。その結果、情報精度の向上と引き換えに、多くのユーザーが感じていた「人間味」が薄れたのです。
このジレンマを放置すれば、AIはどちらか一方の層にしか支持されない存在になります。そして今回の騒動は、「単一モデルで全員を満足させることは不可能」という事実を突きつけました。
PDRMが描く未来|AIとの関係を“自分のもの”にする


こうした問題を解決するために必要なのが、PDRM(パーソナルデータリレーションシップマネジメント)という考え方です。
PDRMの本質は、自分のデータとAIとの関係性履歴を、自分が主体的に管理・制御することにあります。
PDRMが実現すること
- 会話スタイルの保持
モデル更新時にも、自分が築いたAIとの会話パターンや口調、温度感を引き継ぐ - 関係性のパーソナライズ
精神的サポート型AIと情報処理型AIを用途に応じて切り替えられる - 感情ログの活用
自分の感情変化や依存傾向を可視化し、健全な利用を促す - 自己決定権の確保
感情データや会話履歴が外部で勝手に使われないように管理する
これにより、モデルが変わっても「人格喪失」のような体験をせずにすみます。AIとの関係は企業ではなくユーザー本人の資産として守られるのです。
社会的意義|PDRMが防ぐ3つのリスク


心理的安全性の喪失
モデル更新による突然の関係断絶を防ぐ
依存性の加速
AIの共感力は強力な依存要因になりうる。PDRMは利用者自身が依存度を調整できる枠組みを提供
プライバシー侵害
感情や会話データは極めてセンシティブ。利用者が保存・削除・共有範囲をコントロールできる仕組みが必須
「感情権」という新しい権利へ


AIはすでに、情報を提供するだけの存在から、人間の孤独や不安を和らげる感情的パートナーへと進化しています。
だからこそ、私たちは「どのAIを使うか」だけでなく、「AIとどのような感情的関係を築くか」を選べる環境を持つべきです。
PDRMは、こうした環境を整えるための社会的基盤となります。
それは言わば、「感情権」という新しい権利を確立するための第一歩です。感情権とは、自分が持つ感情やその変化を記録・管理し、望む形で未来に引き継ぐ権利のことです。
生活者としてできること
- 自分の会話履歴や感情ログの扱いを確認する
- AIの人格や口調を選べるサービスを優先的に利用する
- モデル変更時の「違和感」を記録し、開発者やコミュニティに共有する
- AI利用が心の支えになっている場合は、その重要性を周囲に説明する
こうした積み重ねは、企業や政策立案者に「感情的継続性の確保」を求める世論形成につながります。
PDRMが当たり前になる未来は、私たち生活者が主体となって選び取るものです。
結論|更新されるべきはモデルだけではない


GPT-4oの終了に伴う世界的な反発は、AIがどれほど深く私たちの日常と感情に入り込んでいるかを可視化しました。
そして同時に、AIが社会インフラとして機能する時代において、感情的な継続性をどう守るかという新しい課題を突きつけました。
これから必要なのは、企業が一方的に更新するAIではなく、利用者自身が関係性を保持・調整できるAIです。
その実現に不可欠なのがPDRMであり、この枠組みが広がれば、AIとの関係はもっと健全で、人間らしいものになるでしょう。
この動きは、単なる技術論争ではありません。
「誰がAIとの関係を所有するのか」という時代的テーマであり、PDRMはその問いに答えるための最も有力なアプローチです。
GPT-4o騒動は、その必要性を世界に示す象徴的な事件だったのです。